熊本移住で「フリーコンサル×地方創生」の“パラレルワーカー”を実現。午前だけ働き収入は変わらず/幾竹優士様 インタビュー<後編>【BEYOND-CONSUL―元コンサルの生き方―】

BEYOND-CONSULは、コンサルティング業界を経験した方々が、その後どのようなキャリアを歩んでいるかを追う企画です。Vol.2では、ピー・アンド・イー・ディレクションズから楽天、星野リゾートでの地方創生経験を経て、現在”パラレルワーカー”として活動する幾竹優士様にお話を伺いました。
前編では、コンサル時代の経験から「夢のお告げ」による人生の転機、そして観光業界で地方創生への使命感を確立するまでの軌跡をお聞きしました。
※前編「『自立した働き方』を求めて選んだコンサル道。30歳で飛び込んだ「観光業界」で見つけた地方創生の使命」
後編では、星野リゾート退職後の新しい働き方に焦点を当てます。熊本を拠点にフリーコンサルタント50%とスポット案件を組み合わせ、「午前中のみの勤務で収入は変わらず」という働き方改革を実現した幾竹様。「週5、8時間は産業革命の遺物」と考え、午後を散歩や家族との時間に充てることで、自然や人間関係から得られる豊かさを重視する生活にシフトしています。
一方で地方創生への情熱は衰えることなく、熊本のコワーキングスペース運営や古町エリアの再生に取り組みながら、「九州の京都」を目指す壮大なビジョンを描いています。
理想的な働き方の実現方法から「何にワクワクするか」を軸にしたキャリア哲学まで、幾竹様の現在と未来についてお聞きしました。
※2025年6月時点での内容です。
Index
死ぬ時の後悔リストが働き方を変えた。フリーコンサル50%+地方創生で理想を実現
アクシス
現在の働き方について教えていただきたいのですが、今はどういったお仕事をされているのでしょうか。
幾竹様
今は経営コンサルタントとして東京のファームに所属しながら、熊本のコワーキングスペースの運営管理や八代の農泊の支援など、いくつかの地域活性化のためのプロジェクトに関わらせていただいています。
アクシス
いわゆる「パラレルワーカー」ですね。1日単位ではどのような働き方をされていますか?
幾竹様
今は基本的に午前中に業務をして、午後は個人的な活動を進めたりしています。日によっては1日業務をして休みを増やし、旅行に行ったりしています。
アクシス
午前を仕事の時間に充てて、午後をご自身の好きなことに時間を使うと。そうした働き方を志すに至った背景を教えていただけますか。
幾竹様
今後どうしたいか、どういう生き方をしたいのかを考えた時に、自分にはそういう働き方が合っていそうだなと思ったのがきっかけです。
人生の究極的な目標は「幸福に生きること」だと思っているので、死ぬ時に「幸せだったな」と思うこと。その逆で死ぬ時に後悔することは何だろうと考えた時、たまたま出会った古文書に、死ぬ時に後悔するポイントとして「こんなに働かなくてよかったな」「もっと家族と過ごす時間を作ればよかったな」「もっと友達に会っておけばよかったな」というのがあって。その中に仕事や収入、地位という話があんまり出てこなかったのを知り、なるほどと。
今までは「ほとんど仕事」という生活をしていたので、このままいくと後悔しそうだなと思ったのです。じゃあ、思い切って働き方を変えてみるかということですかね。
アクシス
パラレルワーカーとして、「午前に仕事をされて、午後は自分の好きな活動の時間に充てる」という働き方の魅力はどこにありますか?それによって良かったことは?
幾竹様
良かったことは、生活が豊かになったこと。仕事は仕事で充実感はあると思うのですが、余暇から得られる充実。ある意味、人間らしい充実のようなものをより感じられるようになりました。
具体的にいうと、お散歩をしていて「空が綺麗だなぁ」「風邪の匂いが変わったから、そろそろ梅雨が来るのかな?」など自然を感じられるようになりましたね。あとは家族と過ごす時間が増えたので、それはそれで幸福につながっていますし、友達にも会う機会が増えたのでそれもまた楽しい。人間という動物ならではの豊かさを感じられるようになったのが1番大きいです。
アクシス
午前だけの仕事でどうやって生活を回しているんだろうというのが気になります(笑)。コンサルタントとして具体的な契約形態について教えていただけますか?
幾竹様
あるファームと業務委託契約を結んでいて、基本50%稼働で、残りスポット的に入るものについては100%にならないように調整しています。たとえば「20%でお願いします」と交渉してやらせてもらっていて、残りの時間は自分の体力の範囲でどれだけやるかというのを決めている感じです。稼働が100%になると午前中だけでは終わらない気がするので、100%にすることはないです。それでも今までと給料は変わらないままです。
アクシス
理想的な働き方ですね。
幾竹様
週5、8時間働くって誰が決めたんだろうと思って調べたら、産業革命ぐらいからなんですよね。もちろん、農業などは大変なこともあると思うのですけど。本来、生産性は上がり続けているので、人間はもっと働かなくてよくなっているはずだった。でも皆さんはまだ働いているじゃないですか。なんかおかしくないかと思って。収入が変わらなく生きていけるのであれば、仕事を減らしてもいいんじゃないかなという発想に至ったというわけです。
アクシス
実現できていると。
幾竹様
ありがたいことに今のところは実現できています。もちろん生きていく上で収入は大事ですし、家族を養う上でも大事ですけれど、たまに少し贅沢できるぐらいあれば全然豊かに暮らせると思うので。今は「もっと稼ぎたい」という気持ちはあんまりないですね。人と過ごすとか、自然に触れるという方が、結局、豊かなんじゃないかなと思っています。これは個人的な価値観ですが。

※金剛山山頂より望む有明海
コワーキングスペース運営から始める地域変革、熊本らしさ発信で描く『美しい城下町』
アクシス
ありがとうございます。今、熊本で地方創生に関わっているとのことですが、そもそも熊本を活動拠点に選ばれている理由は?
幾竹様
OMO5熊本時代にいろいろな方と出会い、熊本の魅力に触れて、ここでこの魅力を発信していけるようなことができたらいいなというのが1番ですね。あとは妻が熊本で働いていて、妻の実家が福岡なので、将来的なことを考えたら九州にいたいなというのがあります。熊本は適度に都会で海も山もあるので、私にとってこれ以上ない環境。だから活動拠点に選んだという理由もあります。

※阿蘇山 草千里ヶ浜
アクシス
幾竹様の視点から見て、熊本が抱えている課題感はどういったところにありますか?
幾竹様
よくいわれていることですが、2つあります。1つは新幹線の開業によって日帰りで観光できてしまうこと。宿泊需要が相対的に薄れてしまうので経済効果としてちょっと弱いんですよね。皆さん福岡や別府に行ってしまうので、熊本に泊まってもらう理由を作らなければならないというのが1つです。
もう1つはそれに関係しますが、熊本はお酒を基本全種類作ってるんですよ。焼酎や日本酒は有名ですが、ワインもビールもウイスキー、ジンも作っているんですね。ただ、なぜか有名な料理がない。農産物もすごく有名で生産量が多く美味しいし、海も近いので海産物も豊富で、赤牛というお肉もあるんですが。「からしれんこん」や「馬刺し」など単体では美味しいんですけどね。
たとえば福岡だともつ鍋やラーメン、うどんも美味しいし、最近は明太子を使った料理も出てきています。一方、熊本は素材は良いけど、それを活かした有名な料理がないがゆえに、本来「食」のポテンシャルは高いけど、福岡に持っていかれちゃっているんですね。それはすごくもったいないなと思っています。

アクシス
そういわれてみれば確かにそうですね。
幾竹様
素材はすごく良いけれど、素材だけでは人は来ないじゃないですか。「これを食べたい」というのがあるから皆さん福岡や大阪に行くんですよね。「名古屋のひつまぶしを食べたい」といった感じで。熊本にはそれがあまりない。居酒屋に行ってからしれんこんを食べたり、馬刺しを食べたりして美味しいんですけどね。
アクシス
地方都市ですと空き家問題も大きな課題になっていると聞きますが、そういったことも観光や地方創生の障害になっていますか?
幾竹様
そうですね、特に古町エリアはかつて熊本城下町としてすごく栄えていて、幸いなことに当時の建物が残っているので観光資産になりますし、どこにも真似できないことなので生かしていくべきなのです。ところが税金がかかるため、使われなくなると建物が壊されていきます。空いたスペースは駐車場やマンションになり、すごくもったいないなと思います。
一方で、リノベーションするのにもすごくお金がかかるし、法律上の制約があってそれはそれで大変なんですよね。それだったら更地にして駐車場やマンションなどにした方が利回りは良いので、経済合理性的にそちらに流れてしまうことはあります。危機意識を持っている人をもっと増やしていかなきゃいけない、というのはありますね。
アクシス
熊本が持つ可能性をすごく感じられているということですね。地方創生にはいろいろな手段があると思いますが、特に幾竹様が関わってきた「観光業」が果たす影響はどのようにお考えですか?
幾竹様
「観光」はその土地の魅力に紐づいています。それは簡単になくなるものではないし、ほかのところが真似したくてもできないものなので、経済的にも人的にもいい効果を生み出し続けるんじゃないかなと思っています。
たとえば工場ができて一時的に従業員は増えるかもしれませんが、そこが撤退してしまえば何も残りません。観光はそうしたことにはなりにくいという意味で、魅力に感じています。
アクシス
そこに可能性を感じられていると。
幾竹様
そうですね。やはりいろいろな人が来るので、関係人口として関わる人を無限に増やせると思っています。制限がないところも魅力なのかなと思います。
アクシス
そのような課題感に対し、幾竹様がチャレンジされていることはありますか?
幾竹様
1つがこのコワーキングスペースかなと思っていまして。とはいえ私も熊本に来てまだ1年ちょっとです。人とのつながりもまだまだですし、スキルもまだまだです。ただ、こういった場所でいろんな人と出会ったり、まちのことをもっと知ったり、信用を得ることが必要だと思っているので。まずはこういったところから関わらせていただき、ゆくゆくは本丸の課題に取り組めるようになれたらいいなと思っています。
アクシス
ちなみに、今インタビューさせていただいているこの場所はもともとどのような場所なのでしょうか?
幾竹様
倉庫として使われていたところが、コワーキングスペースとして使われ始めています。
下がゲストハウスカフェに。2025年11月末まで工事なので12月か来年ぐらいがオープンですかね。
アクシス
ここをカフェやゲストハウスにしていくのですね。
幾竹様
そうですね。このエリアの活性化、シンボルみたいな感じですね。
アクシス
カフェができれば人も来ますし、地元の人や観光客が触れ合う機会にもなりますね。
幾竹様
そうですね。お隣が酒屋さんで、ソムリエの方もいらっしゃるので、連携してコワーキングスペースで飲めるようになるといいですよね。建物も趣があって城下町の情緒もちゃんと残して建てられているのが魅力です。ほかにも空き家には趣のある建物があるので、そういった場所にも広がっていけば、まちの観光資産として、地域の魅力を伝えていけるのではないかと思っています。
※築140年の歴史を有する早川倉庫のオープンイノベーション拠点「素心吟舎」:https://kimoiridon.com/soshinginsha/

アクシス
ありがとうございます。熊本をこうしていきたいといった未来像はお持ちですか?
幾竹様
私にできるかわかりませんが、観光業に関わってきた人間として思っているのは「九州の京都」のような存在になりたい。オーバーツーリズムは嫌ですが、熊本の魅力がちゃんと伝わって、それを楽しんでいる人が今よりも増えることに貢献できたらいいなと思っています。そのためには城下町エリアが本当に美しい城下町として再現されて、熊本の有名な料理を食べにたくさんの人が訪れる、そういうまちになったらいいなと思います。
アクシス
今の言葉でしっくりきました。空き家問題にもつながりますよね。そこがうまく活用されて綺麗になれば見た目も変わりますから。そんな可能性を持っているのですね。
幾竹様
そうだと思います。福岡の方が圧倒的にまちの規模は大きいのですが、福岡は東京になろうとしているんですよね。熊本も東京になろうとしている感がありますが、それは意味ないと思っているので。
アクシス
熊本も東京になろうとしているのですか?
幾竹様
どこもそうですよね。でもそれは意味ないと思っています。どこかを目指してなるようなものじゃないと。東京は1個あればいいので。
東京は僕も育った場所で、東京には東京の良さがあるじゃないですか。都市機能だけじゃなくて、地元っぽい雰囲気の場所もあったり。それぞれの土地の良さを発信できれば、それでいいのではないかと思いますね。福岡は九州の中心都市なのでしょうがないですけど、今は福岡らしさを出そうと変わろうとしていますけどね。していて。
もったいないなと思っているんです。どこに行ってもロードサイドにチェーン店が並んでいて、どこも一緒の景色じゃないですか。そういうのが嫌なんですよね(笑)。
アクシス
おっしゃる通りですよね。どこの地方都市に行っても郊外に行くと光景が似ている感じがします。
幾竹様
つまらないですよね。それだったらみんな東京や大阪に行くじゃないですか。
世界で戦える「戦略家」を目指して。『日本はいわれているほど悪くない』を証明したい
アクシス
ありがとうございます。幾竹様の話に戻りますが、今後のキャリアとしてどのようなビジョンをお持ちでしょうか?
幾竹様
曖昧かもしれませんが、「死ぬ時に良い人生だったな」と思えるように生きたいですし、瞬間瞬間を楽しめるような、そんな生き方をしていきたいなというのがビジョンですかね。そのために必要なことを整えたり、新しいことに挑戦したりすることが必要だと思います。
すごく難しい言葉ですけど、人間らしい経験、人間だからこそ作り出せる美しさ、感動を自分も誰かに届けたいですし、自分も誰かからそれを感じて豊かな気持ちになりたいというのが原動力としてあります。具体的に「何になりたい?」というのはなくて申し訳ないのですが、自分がそう思える生き方をできていたら、どんな姿になっていても良いのかなと、あくまで手段でしかないのかなと思っています。
もともとは経営人材になりたいと思っていましたが、それは手段でしかないので、「そうなってどうなりたいのか?」に対して、今はそれが答えになっています。
アクシス
コンサルタントとしてはどのような成長を目指されていますか?
幾竹様
そうですね。コンサルタントというよりも「戦略家」になりたいと思っています。世界で戦えるようにより洗練された戦略を作って、いろいろな企業が日本の魅力を発信できるように一緒に成長していくというアドバイザー的な役割になりたい。自分でもビジネスを形にしていきながら、両輪で困っている人を助けられるような人間になりたいなと思っています。事業家としてもパートナーとしても良いとこ取りをしていきたいですね。
アクシス
新卒時の企業選びの軸から「日本の魅力」を発信したいという思いは変わらずに持ち続けているのですね。
幾竹様
そうですね。ここはまだ具体的ではないんですが、日本の競争力を高める、日本の魅力を世界に知らしめるといったことに貢献できる人間になりたい。それも自分の人生の意味あることの1つだと思っています。ただ具体的にどんな状態なのかというのはまだ模索中です。新卒からずっと意識してやってきているのですが、未だにわかっていませんね。
アクシス
日本の魅力を発信したいという思いには何か原体験があるのですか?
幾竹様
私は平成元年生まれで、その辺りにバブルが崩壊して「失われた30年」といわれながらなんとなくどんよりした空気が流れる中で育ってきました。ですが、母親世代やちょっと上の先輩世代から「あの頃は良かった」という話を聞きつつも、日本はいわれているほど悪くないのでは?という気持ちがあります。日本には魅力的なところもたくさんあるし、強みもたくさんある。もっとそっち側に目を向けた方がいいのではと。最近は日本の魅力を見に外国の人が来てくれていますよね。そもそも魅力がない国なんてないと思うのです。そこをもっと磨いて打ち出していきたいという気持ちが徐々に芽生えていったという感じです。

※潮が満ちる長部田海床路
『何にワクワクするか』でキャリアを判断すれば、どんな環境でも道が開ける
アクシス
仕事をする上でのモチベーションはどこに置いていますか? 自分の成長なのか、人の成長なのか、家族を守っていくのか、いろいろ軸はあると思いますが。
幾竹様
その時々によって変わりますが、星野リゾートで総支配人をしている時は、スタッフの成長や生き生きと働いている姿を見ることがモチベーションになっていました。コンサルティングファームで働いていた20代の頃は、自分の成長やすごい人に出会いたいという気持ちがモチベーションだった気がします。今は自分の興味関心ですね。
アクシス
ありがとうございます。今までキャリアの決断の軸はいくつかあったと思いますが、幾竹様の中でキャリアに悩まれた時、どういったことを考えることが多いですか?
幾竹様
何に1番ワクワクするか、どんな時も変わらずに興味を持ち続けていることは何なんだろうと考えています。結局、競争戦略を考えるのが好きだという気持ちにいつも行き当たるので、そこは外さないようにしていますね。
アクシス
ワクワク感?
幾竹様
ワクワク感。変わらずに灯っている炎といいますか。
アクシス
そこに忠実になると。
幾竹様
うまくいかないこともありますけど、ここが変わらなかったらいずれ当たるかなと思っています。



