PEファンドの投資先で求められる人材(投資年度別)

PEファンドの投資先で求められる人材(投資年度別)

PEファンドの投資先で求められる人材を、投資実行後の年度別にイメージできる転職志望者は少ないかもしれません。フェーズによっては、実は管理職クラスよりも、営業経験者が求められることもあるのが特徴です。

なお、PEファンドでは3年~5年保有してExitする事が多いですが、3年目から5年目のフェーズは人材が揃った状態となります。
今回はPEファンドでの勤務経験を持つ筆者が、人材が揃うまでの、投資実行1年目、2年目、3年目に分けて解説していきます。

投資実行1年目(事業承継案件/カーブアウト案件/事業再生案件別)

投資1年目においては、3つの切り口から記載をします。(2年目以降は、どのケースにおいても体制が整備された前提の中、成長を目指すという点で同じであるため、一律の記載としています。)

a.事業承継案件のケース
b.カーブアウト案件のケース
c.事業再生案件のケース

a.事業承継案件のケース

中堅・中小企業の事業承継案件の場合、オーナー社長が株式譲渡後に引退をするケースが多いため、CEOの招へいが求められます。多くのファンドにおいて、独自の経営者ネットワークや経営者プールを活用して招へいすることもあれば、転職エージェントに投資対象会社に見合った人材サーチをお願いすることもあります。投資実行日であるDay1に間に合うようにCEOを採用できれば良いのですが、必ずしも適切な人材がピンポイントで見つかるということはなく、1年目の期中でジョインすることが多いのではないでしょうか。

また、多くの事業承継案件では、オーナー社長の金庫番となっていた管理部長が高齢のため、共に引退・退職されることが多いのではないでしょうか。そのため、CFOもしくは管理部長クラスの人材をCEOと同時に招へいすることが多くなっています。事業承継案件においては、中小企業独自の管理がなされていることがあって、不備も多く、PEファンドが求める水準まで管理体制を引き上げることは困難なケースが多くあります。
ゆえに大企業のみの高度で整った管理部門の業務しか経験がない管理部門人材では、手に負えない可能性が高く、中堅企業・中小企業の管理部門トップを経験したことのある人材の方が向いていると言えるでしょう。

全てのケースにおいて同様ですが、投資1年目についてはPEファンドの担当者と二人三脚で業務を進めていくことになります。PEファンドとコミュニケーションがとれ、レポート業務を怠ることのないように連携できるとなお良いのではないかと思われます。

b.カーブアウト案件のケース

カーブアウト案件においては、スタンドアロン問題の有無によって外部から採用すべき人材が変わってきます。株式譲渡によるカーブアウト案件(MBO案件)では、子会社の経営陣とPEファンドが共同して独立を果たすべくカーブアウトを実行するケースが多数です。旧体制の経営陣、管理体制+ファンドのメンバーにて自走していくケースが多いと思われます。
ゆえに、既存経営陣の頭脳となれるような経営企画人材をファンドから送り込むケースが多く、追加で募集がかかることがあります。

一方、事業譲渡のように事業だけを切り出してバイアウトが行われる場合は、カーブアウト後、管理部門が存在せずスタンドアロンの状態に陥ります。初期の頃は旧親会社の管理部門に委託料を支払って管理機能の使用を継続させてもらったり、管理業務自体を全て外注に回したりするケースも出てくることもあります。

並行してCFOもしくは管理部長クラスの採用を実施するとともに、管理部メンバー(経理、労務、法務など)の募集を早急にかけ、管理部門の内製化を目指します。そのためゼロから管理部門を作ることのできるマネジメント人材を中心に採用することになるでしょう。

また、事業部に経営者が部門長として配属されて切り出される場合やキーマンが社長に就任する意思がある場合は問題ありません。しかし事業部を取り仕切ることができるプレイヤーがいない場合や社長をはじめとした経営を担う人材がいない場合は、外部から不足人材を補充する必要があります。

c.事業再生案件のケース

事業再生案件は、再生時のスポンサーとして投資実行がなされるケースが通常であるため、前経営陣の退任が条件であることが多いものと思われます。そのため、Day1にファンドから直接社長が派遣され、加えて、不足するポジションのプロ経営者(CEO、CFO、その他CxO)が一同に送り込まれるケースが多いと思われます。どの経営者であっても同じでありますが、特にCEOとなる社長には、短期間で再生を果たすためにリストラを断行できるタフな精神を持ち合わせた人材が好まれる傾向にあります。また、銀行をはじめとした外部のステークホルダーと粘り強い交渉を行えることも条件です。
また、不安が募った状態で業務に従事することになる従業員に対して、ポジティブな印象を与えながらリードを切りつつ会社の舵取りをしていくことが重要になってきます。

A~Cの全てのケースにおいて、投資実行1年目はCEOをはじめとした経営陣を招へいし、ファンドとして会社のガバナンスを握ることに注力する年度であると言えます。ゆえに、統率がとれない経営者や投資先に適合しないケースでは、半年程度で経営者を交代するPEファンドも多くみられます。

投資実行2年目:現場マネジメントが得意なCOOなど、手を動かせる人材を採用していくシーン

投資1年目には、外部から招へいしたCEOやCFOが中心となるとともに、ファンドメンバーが直接ハンズオンにて支援をすることで、会社全体の見える化、高度化を図る場面となります。しかし投資2年目になるといよいよ描いた戦略を実現すべく、成長に向けて施策のPDCAを回していくことが重要です。そのため、現場マネジメントが得意なCOO人材やその下で手を動かせる人材を採用していくシーンに移ります。特定分野に関する事業会社出身者や成長を促進することが得意な現場よりのコンサル出身者を好んで採用するケースが増えるでしょう。

また、都心であれば比較的人材が見つかりやすいのですが、地方であるとなかなか専門家が見つからず、(特にITやECなど)都心から単身赴任や移動を伴って募集をかけるケースも見られます。管理職クラスだけでなく、管理職候補となるジュニア世代についても募集をすることが多く、若い人材にとってはPEファンドの組成する案件の中で働くきっかけにはなるものと思料します。

投資2年目は、1年目に採用がなされ組成された経営陣を中心に事業に入り込んで手を動かし、事業を作っていける管理職クラスや管理職候補の人材が求められる傾向が強くあります。一方で、管理職クラス~管理職候補の人材は比較的幅広に人材が存在するため、会社やPEファンドの社風とあわず退職してしまう人材が多くなる傾向から複数名吟味されることとなります。そのため、マネジメント層ほどではないですが、採用難易度は高いものと考えて頂ければと思います。

投資実行3年目:Exitを見据えた体制整備が必要なため、次世代の管理職を担う手を動かせる層や営業人員など

投資3年目となると、順調に案件が推移をしていれば、会社が成長をしてきている時期です。売上の増加とともに、従業員の採用を加速させなければならない時期であるとも言えます。ここで必要なのは、管理職クラスよりも営業スキルのある人材です。次世代の管理職を担う手を動かせる層や営業人員など、ジュニア層が中心となった募集が多くなる時期となります。プロフェッショナル人材で言えば、戦略系のコンサルタントというよりも、営業面やDX改革などの業務系のコンサルタントで、成長のための現場支援の経験があるプレイヤーが求められる傾向です。

さらに、投資3年目になると、Exitを見据えた体制整備が必要です。ファンドから体制整備のために派遣していた人材がファンドのExitとともに抜けることもあるため、その後継者となるポジションの募集も求められます。次の買い手候補にとって、マイナスにならないための補充要素もあると考えられるでしょう。

最後に、全てのケースにおいて当てはまる項目ではありますが、IPOを目指す場合は上記に加えて、さらに管理体制を高度化させ、成長を促すために大きな人件費をかけていきます。採用に期待される人材のレベルがあがるとともに、IPO準備の経験がある人材が求められるでしょう。特に管理部門、CFOクラスの人材においては、証券会社対応や監査法人の公認会計士との交渉、均衡が求められます。そのため、外部プロフェッショナルと同等に渡り合える知見を有し、現場をリードできる経験を有するプロジェクトリーダー人材が必要です。IPOを支援した実績のある監査法人出身の公認会計士や、他社でIPOを経験した管理部門人材が高く評価される傾向にあります。

いずれにせよ、PEファンドという仕組み上、時間は有限であるがゆえ、時限性が求められつつ、もともと収益性が安定している会社を更にグロースさせることが求められます。通常のスタートアップ企業のIPO準備に比べて要求されるレベル感が大幅に高く、ファンドとのコミュニケーション含め非常に高い水準のスキルセットが求められるものと考えて頂ければと存じます。

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