「コンサルタントが独立」して初年度に行うべき手続きと注意点

「コンサルタントが独立」して初年度に行うべき手続きと注意点

弊社では、多くの方々から「独立してフリーランスや法人を立ち上げたい」というご相談を多くいただいています。その際に共通して浮かび上がるのが、初年度に行うべき手続きや準備をどこまで整備できるかが、独立後の安定性とキャリアの選択肢を左右するという点です。

特に、以下の5つの領域での準備が重要となります。

  • 法人設立か個人事業主かという独立形態の選択
  • 開業届や青色申告などの税務関連の手続き
  • 契約・請求・売上管理に関する収益基盤の整備
  • 保険や商標などのリスクヘッジとビジネス基盤の確立
  • 集客・案件獲得に向けた初年度の戦略

これらは単なる事務処理ではなく、独立を持続可能なキャリアに変えるための構造設計と言えるでしょう。

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ケース面接の代表的なパターンと例題・解答【売上推計と売上拡大策①<カフェ事業分析編>】
https://insight.axc.ne.jp/article/careernavi/2841/

「コンサルタントが独立」を選択する背景

外資系や総合系ファームに所属していた方が独立を検討されるケースは増えています。背景には以下のような動機があります。

  • マネージャー以上となり、自らの強みを武器に案件を直接獲得したい。
  • ワークライフバランスを重視し、プロジェクト単位で働き方を柔軟にしたい。
  • 将来的に事業会社やスタートアップへのキャリアチェンジを見据えて独立経験を積んでおきたい。

実際に弊社にご相談いただいたある元戦略ファームの方は、独立を経てDX部門の責任者に転職。その際、法人代表経験やクライアント直接契約の実績がキャリア評価に直結しました。独立はゴールではなく、その後のキャリアを形づくる重要な布石ともなり得る事例です。

さらに、制度的なリスクヘッジとして、2024年11月から「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行されました。これは、従業員を雇用しない法人や個人事業主に対して、以下のような保護を整備するものです。

  • 発注者に対し、報酬支払い期日の明確化や不当な契約解除の禁止を義務化
  • ハラスメント行為の禁止や相談窓口設置の義務付け
  • 報酬や契約条件に関する透明性の向上
これにより、独立・開業するフリーランスやコンサルタントが不利な立場で取引を強いられるリスクが軽減され、法的に守られる環境が整ってきています。その結果、これまで以上に独立を現実的なキャリア選択肢として検討する人が増えているのが実情です。
(参考)2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会

「コンサルタントが独立」する時の2つの選択肢

独立の第一歩として必ず検討するのが、「法人を設立するか」「個人事業主として始めるか」という選択です。どちらが正解というものではなく、案件規模や顧客属性によって最適解は変わってきます。個人事業主で50〜80万円程度のコストでスタートし、売上が安定してきたら法人化するという流れが多く見られます。特に大手企業と直接契約を目指す場合は、早期の法人化で信用力を高めることが有効です。

(実例)ある総合ファーム出身のシニアマネージャーは個人事業主としてスタートし、売上3,000万円を超えた時点で法人化。法人格を持つことで、顧客単価が上がり、顧問契約も獲得しやすくなったと語っています。

以下にメリット・デメリットを比較表でまとめます。

メリット・デメリット比較

観点 個人事業主 法人設立(株式会社・合同会社)
設立費用・手間 開業届提出のみで無料。
印鑑・名刺等を含めても数千円〜1万円程度。
株式会社:約25〜30万円
合同会社:約10〜15万円。
専門家依頼で+数万円。
信用力 法人に比べて低め。大手企業との契約では不利になる場合あり。 社会的信用度が高く、契約・資金調達・採用で有利。
税制・節税 青色申告により65万円控除あり。ただし節税余地は限定的。 役員報酬設定や経費計上の幅が広く、利益が出るほど節税効果が大きい。
維持コスト ほぼゼロ。確定申告(自分 or 税理士依頼)程度。 決算申告・法人税申告が必要。税理士顧問料など維持費が高い(年間数十万円)。
社会保険 国民健康保険・国民年金に加入。
保険料は所得に応じて変動。
社会保険に加入(会社負担あり)。
将来的な保障面では厚みがある。
事業拡大余地 1人で完結する仕事に向く。
規模拡大や雇用には不向き。
従業員雇用、外部資本受け入れ、組織化に対応可能。
おすすめのケース 案件数や売上見通しが不透明な独立初期、スモールスタート志向の方。 初年度から売上数千万円規模を見込む方、大手企業と直接契約する予定がある方。

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コンサルタントが独立する時に必要な手続きと必要書類:税務関連

独立を考える際、最初に直面するのがどの手続きをいつ行うべきかという課題です。案件獲得やマーケティングに意識が向きがちですが、初年度に税務や契約、基盤整備を正しく整えることが、その後の安定と信用を大きく左右します。
本項では、独立初年度に必要となる手続きと費用感を、具体的な流れと実例を交えてわかりやすく解説します。

(事例)初年度から税理士に依頼し、適切な節税策を導入した結果、多額の納税を回避できた事例がある一方、同時期に独立した別の方は青色申告を逃し、数十万円の追加納税を余儀なくされたというケースも存在するため、独立にあたって非常に重要な手続きであると言えるでしょう。

手続きの流れ(個人事業主として独立する場合の基本)

【開業から1カ月以内】
・開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)提出
(参考)A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁
・給与支払事務所等の開設届(外注/雇用がある場合)
(参考)A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁

【開業から2カ月以内】
・青色申告承認申請書の提出
(参考)No.2070 青色申告制度|国税庁

【取引開始前】
・インボイス登録申請(法人クライアントと契約予定なら必須)
(参考)D1-64 適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁

【初年度】
・所得税の予定納税は不要(前年所得なし)

【翌年以降】
・所得に応じて予定納税が発生する場合あり
・確定申告(毎年2月16日〜3月15日)

税務関連の必須手続き一覧(独立初年度)

書類・手続き 提出先 提出期限 費用 主な内容・メリット ポイント
(1) 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書) 所轄
税務署
開業から1カ月以内 無料  氏名・住所、開業日、屋号(任意)、事業内容を記載  事業開始を公式に認められる。屋号口座やカード作成が容易。提出控えに収受印が必要。
(2) 青色申告承認申請書 所轄
税務署
開業から2カ月以内 or 3/15まで 無料  最大65万円控除、赤字3年繰越、家族給与の経費算入可 単式簿記は控除10万円。実務上は複式簿記+会計ソフト導入が必須。
(3) 所得税の予定納税 初年度は不要(前年所得なしのため) 高所得になると翌年から発生 初年度は対象外だが、翌年以降に注意。
(4) インボイス登録 税務署  適用課税期間の前日まで 無料  取引先が仕入税額控除を受けられる 法人クライアント取引予定なら事実上必須。未登録だと契約敬遠リスク。
(5) 給与支払事務所等の開設届 税務署  開設から1カ月以内 無料  外注先から従業員への給与支払い時に必要 提出で源泉徴収義務が発生。雇用予定がある場合は必ず届け出。

コンサルタントが独立する時に必要な手続きと必要書類:売上関連

独立初年度のコンサルタントにとって、売上や経費の管理体制をいかに早く整えるかは、その後の事業の安定性を大きく左右します。案件の契約や請求が曖昧だと入金が遅れ、資金繰りが滞るケースも少なくありません。逆に、口座やクレジットカードを事業専用に分け、契約・請求の仕組みを整えておけば、税務上の透明性が高まり、クライアントからの信用度も向上します。
本項では、売上管理・経費管理・契約・請求書・口座・カード といった実務をどのように整えるべきかを具体的に紹介します。

(事例)元外資系ファームのパートナー経験者は、契約条件を曖昧にした結果、入金が数カ月も遅延し資金繰りが逼迫。契約段階での支払い条件明記が独立コンサルにとって死活問題であることを実感されたと伺いました。

売上・契約関連の整備と注意点

項目 内容 注意点・ポイント 費用感
売上管理 会計ソフト(freee、マネーフォワード等)で案件ごとに売上を記録。入金予定日や消費税区分も併せて管理。 入金サイト(例:末締め翌月末払い)を契約書で明確化。資金繰り予測に必須。項目 会計ソフト:年1〜3万円程度
経費管理 交通費、宿泊費、書籍代、通信費、交際費などを領収書・電子明細とセットで保存。クラウドで整理。 税務調査で領収書不備があると経費否認のリスク。電子帳簿保存法対応が望ましい。 領収書保存サービス:月1,000円程度
契約書 業務委託契約書を締結。業務範囲、支払条件、秘密保持(NDA)、成果物の権利関係を明記。 口約束はリスク大。報酬未払い・範囲外業務要求の火種になりやすい。 雛形利用:0円、弁護士依頼:5〜15万円
請求書 インボイス対応の請求書を発行。請求番号・登録番号・取引内容・消費税額を必須記載。 インボイス未対応だと法人顧客から敬遠される。クラウド請求管理システム活用が効率的。 請求書サービス:年1万円程度
銀行口座 事業専用口座を開設。個人口座と分けることで売上・経費を明確化。屋号付き口座も利用可能。 個人利用と混在させると税務リスクが高まり、資金繰り把握も困難に。 無料(最低入金額のみ必要)
クレジットカード 事業用カードを作成し、経費支払いを一本化。仕訳が自動連携され効率化。 個人カードとの併用は避ける。法人カードは審査に時間がかかるため早めに申請。 年会費0円〜数万円(アメックス等は数万円)

コンサルタントが独立する時に必要な手続きと必要書類:ビジネス関連

案件獲得や税務処理と同じくらい重要なのが、ビジネス基盤を守る仕組みづくりです。ブランドを保護する「商標登録」、万一のトラブルに備える「保険」、そして生活と事業の両面を支える「社会保障制度」の理解と整備は、後からでは取り返しがつかないケースも少なくありません。初年度からこれらを整えておくことが、長期的な事業継続の鍵になります。

(事例)製造業向けの助言を行った独立コンサルタントが、クライアントから損害賠償を請求されたケースがあります。保険未加入だったため自己負担となり事業撤退に追い込まれました。対照的に保険加入していた方は、保険でリスクを吸収し、事業継続に成功したという事例も存在します。

ビジネス基盤の確立:商標・保険・社会保障

項目 内容 注意点・ポイント 費用感
商標登録 屋号やサービス名を保護するために出願。ブランドの模倣や紛争を防止。 登録まで半年〜1年かかる。区分ごとに費用が発生するため、対象範囲を明確に。 出願料12,000円+登録料28,200円/区分。
弁理士依頼なら追加5〜10万円程度。
損害賠償責任保険 コンサルティング助言や成果物を原因とする損害賠償リスクに備える。 大手企業と契約する場合、加入を求められるケースあり。 補償範囲により変動。
所得補償保険 病気やケガで稼働できなくなった際に収入をカバー。 個人事業主は労災や傷病手当がないため、独立初年度から検討すべき。 月3,000円〜1万円程度。
国民健康保険 独立後は会社の健康保険から要切り替え。所得に応じて保険料が決まる。 高所得者は保険料が急増し、上限に達しやすい。前年の所得を基準に計算されるため注意。 年60〜100万円(年収1,000万円以上。想定・自治体により差あり)
国民年金 会社員時代の厚生年金から、定額制の国民年金へ要切替手続き。 将来の受給額は少なめ。付加年金やiDeCoで上乗せする人が多い。 月17,510円(2025年度)、年間約21万円。
社会保険(法人設立時) 法人化した場合は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務。 会社負担分が発生するためコスト増。ただし保障は手厚い。

年収1,000万円以上の場合、会社負担含め年間150〜200万円程度

(参考) 国民年金保険料の追納制度|日本年金機構 

集客・案件獲得に向けた初年度の戦略

どれだけ税務や契約の手続きを整えても、案件を獲得できなければ事業は成立しません。独立コンサルタントにとって最も大きな壁は安定した集客と継続的な案件獲得です。ただし、この領域は深く掘り下げるべきテーマであり、本記事では全体像を整理するに留めます。具体的なマーケティング手法や案件獲得チャネルについては、別記事で詳しく解説いたします。

(事例)独立初年度に紹介案件だけで生活を維持できた方は、2年目から紹介が減少。そこでHP発信やセミナー登壇を強化し、新規案件の獲得に成功。

集客・案件獲得に向けた初年度の戦略(概要)

項目 内容 ポイント 優先度
エージェントの活用 エージェントに登録し、紹介案件を獲得。初年度売上の大部分がここからになるケースも多い。 独立初年度の8〜9割のコンサルタントがエージェント案件に依存しており、特にマネージャー層以下では必須の手段。 ★★★
(必須)
既存人脈の活用 前職の上司・同僚・取引先から紹介案件を得る。 信頼ベースの獲得は安定性が高いが、ディレクターやパートナークラスなど限られた層に偏っている傾向あり。 ★★★
(必須)
※可能なら
顧問契約の獲得 単発プロジェクトではなく、月額固定の顧問契約を組み込む。 収益基盤を安定化できる。顧問先の数が増えるほどキャッシュフローが読みやすくなる。 ★★☆
(重要)
セミナー・勉強会 オンラインセミナーやウェビナーを開催し、見込み顧客と接点を創出する。 自身の専門領域をアピールし、信頼関係構築につながる。 ★★☆
(余力次第)
プラットフォーム活用 プロフェッショナル向けマッチングサイト(例:ビザスク、Lancers)を利用。 スポット案件・短期案件獲得に有効だが、単価は低め。補助的に活用。 ★☆☆
(補助手段)

おわりに

今回紹介した独立初年度に押さえるべき手続きや基盤整備は、単なる事務作業に留まらず、今後のキャリア価値を支える中核的な準備ともいえます。適切な制度設計と信用の確保があるからこそ、案件獲得や次のキャリア選択に余裕を持って臨むことができます。
現職の環境ではこうした準備に十分に取り組むことが難しい、と感じられている方がいらっしゃれば、選択肢を広げるお手伝いをすることも、私たちエージェントの役割だと考えております。転職を前提とせずとも、情報収集やキャリアの棚卸しを通じて、将来の選択肢を整理される方も多くいらっしゃいます。ぜひお気軽にご相談ください。

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ケース面接の代表的なパターンと例題・解答【売上推計と売上拡大策②<ビール会社のシェア戦略分析>】
https://insight.axc.ne.jp/article/careernavi/2843/

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