トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社 CEOインタビュー/“地域価値創出”PEファンドが目指す「地方経済の未来を変える」新たな資本供給モデル

トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社(以下、トパーズ・リージョナル・パートナーズ)は、「地域企業の成長で地域価値を創出」することを使命に掲げ、地域の中堅・中小企業に特化したエクイティ投資を展開するファンドです。
2022年7月の設立以来、地域経済の中核を担う地域企業に対して、単なる資金提供にとどまらず、経営ノウハウや人的ネットワークなどの経営資源も併せて提供する「資本と実務支援の両輪」アプローチで、地域企業の持続的成長と雇用創出を後押ししています。
同社の大きな特徴は、企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)での豊富な実務経験を持つ弁護士CEO、大手地銀出身者、投資銀行、電通でクリエーティブ部門を率いた人材など、多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルチームによる包括的な企業支援にあります。
今回は、同社代表取締役の森直樹様に、地域企業を取り巻く環境の変化、デット投資では解決できない企業課題に対するエクイティ投資の可能性、そして地域経済の未来を支える新たな金融モデルについて詳しくお聞きしました。
Index
「既存のデッドでは立ち行かない…」コロナ禍を契機に誕生した地域企業を救う新たな仕組み
アクシス
トパーズ・リージョナル・パートナーズの企業理念についてお聞かせください。
森様
私たちトパーズ・リージョナル・パートナーズは、地域の中堅・中小企業の「成長局面」において、資本(エクイティ)を通じて事業の発展を後押しし、企業価値を高めていくことを使命としています。単なる資金提供にとどまらず、経営ノウハウや人的ネットワークなどのリソースも提供することで、持続的な成長や雇用創出につなげ、ひいては地域経済の活性化に貢献することが、私たちの存在意義です。加えて、投資家の皆さまに適切なリターンをお返しすることも、ファンドとして果たすべき重要な責任と捉えています。
アクシス
2022年7月に設立されていますが、その経緯を教えていただけますか。
森様
設立の大きな契機となったのは、新型コロナウイルス感染拡大による経済環境の急激な変化です。売り上げの急減や事業活動の停止など、多くの企業が将来に不安を抱える一方で、金融機関も貸付金返済のリスケジュールには応じても新規融資には慎重で、既存のローン(融資)では立ち行かない企業が少なくありませんでした。
特に財務基盤が決して弱いわけではないのに、一時的なキャッシュフローの悪化で動けなくなっている企業が数多く存在していました。そうした企業に対して、資本を供給し、外部から経営資源を投入することで再び成長軌道に乗せていく。そういった役割を担うファンドの必要性を強く感じました。
また、地域では後継者不在などの課題も深刻です。誰が次の経営を担っていくのかが見えない中で、企業の価値をどう維持・向上していくのか。こうしたテーマに対しても、資本と実務支援の両輪で関与していく必要があると考えていました。
アクシス
森様ご自身は、弁護士として地域企業と関わってこられたご経験がありますが、そこからトパーズ・キャピタルとの関わりを経て、トパーズ・リージョナル・パートナーズを立ち上げられた経緯を教えていただけますか。
森様
そうですね。私は2012年の同社の創業当初から、リーガルのアドバイザーとして関わってきました。トパーズ・キャピタルは国内初のプライベートデットファンドを手がける会社であり、主に企業への融資を通じて支援するスタイルを取ってきました。
その中で、現会長の松田清人氏や現パートナーである吉戒孝氏と出会い、ちょうどコロナ禍という時代の要請の中で、「今後はエクイティを通じた事業性向上の仕組みが必要だ」との問題意識がを共有されました。私自身もその“機能の欠如”を地域の個別企業支援の現場で痛感していたこともあって、すぐに意気投合しました。
私自身の企業再生支援機構での実務経験や、地域企業や地域金融機関とのネットワークを持つ弁護士としての立場を評価いただき、「代表としての役割を担ってほしい」との誘いを受けたのです。そうした背景もあり、2022年夏にトパーズ・リージョナル・パートナーズを立ち上げるに至りました。
アクシス
ちなみに、現在のトパーズ・キャピタルとの関係性についても教えていただけますか。
森様
もともとトパーズ・リージョナル・パートナーズは、トパーズ・キャピタルを親会社とする形で設立されましたが、当初から私たちはファンドとしての独立性を重視しており、その後資本関係を解消し、独立のファンドになっています。とはいえ、役員の一部が兼務していて、人的な交流は継続しており、良好な関係を続けています。
トパーズ・キャピタルが手がけるのはプライベートデット、私たちはエクイティ。つまり支援手法が異なるため競合する関係ではなく、むしろ補完関係にあります。お互いに情報交換をしたり、案件に応じて人をつなぎ合ったりと、連携する場面も少なくありません。
※トパーズ創業の背景については下記の記事にて詳細に伺っております。
https://insight.axc.ne.jp/article/company/7259/
経営管理から営業拡大、ブランド強化まで企業価値を引き上げる投資戦略
アクシス
投資方針や戦略について、改めてお聞かせいただけますか。
森様
私たちが対象とするのは、地域経済において「この会社にはぜひ残ってほしい」と地元の方々や金融機関から期待されている中堅・中小企業、いわば地域経済の中核を担うような企業です。業種や地域は限定せず、売り上げ規模で言えば二桁億円から100〜200億円規模の企業まで幅広く対象としています。
まず大前提として、ファンドである以上、投資家の皆さまにリターンをお返しする責任があります。そのため、投資した企業が私たちの関与を通じて確実に収益を伸ばし、企業価値を高められるか。そして最終的に出口が見えるかどうかを重視します。基本的な投資期間は3~5年で、その間に成果を出すことが求められます。
投資先選定においては「高値づかみしない」ことを徹底しています。競争に流されて過大なバリュエーションで投資すると、出口戦略でリターンが確保できません。適正な水準で投資し、私たちの関与によって企業価値を着実に押し上げられる案件を厳選しています。
アクシス
具体的にどのように支援をされるのですか。
森様
私たちはまず、株主として企業に参画します。その上で、ハンズオンで経営に関与し、経営管理、営業戦略、ブランディング強化まで幅広くサポートしながら、企業価値を高めていきます。
特に地域のオーナー企業では、経営がオーナー個人の経験や勘に依存し、意思決定が属人的になっているケースも少なくありません。そこで私たちは、まず経営管理の仕組みを整えることを最優先にしています。
さらに営業戦略については、販売拡大や新規顧客開拓の施策を共に検討・実行することが多くあります。加えて、ブランド力の強化によって差別化を図り、売り上げ拡大や利益率向上につなげる。こうした支援を通じて、企業の持続的な成長を後押ししています。
アクシス
出口戦略についてはどのようにお考えですか。
森様
基本的には、保有した株式はトレードセール(第三者への売却)によって次の承継先に譲渡します。その際には、地元の金融機関と企業がその後も良好な関係を維持できるように配慮しながら、私たちが財務基盤を改善していく過程で、金融機関に改めて資金を供給していただき、その資金で当社の持ち分を買い戻していただくことも想定しています。
また、経営者や社内の後継人材がMBO(マネジメント・バイアウト)のためのファイナンスを活用し、株式を取得する形で地域のオーナーシップに戻す方法もあります。いずれの場合も、私たちは一定期間企業と伴走して成長支援を行った上で、適切な形で地域へと株主(エクイティ)をお戻しし、さらに次の成長フェーズへ向かっていただくことを基本方針としています。
アクシス
他のファンドと比べた際の特徴や強みについてお聞かせください。
森様
私たちの強みは、まず「メンバーの多様なバックグラウンド」にあります。金融機関で事業再生や投資に携わってきたメンバー、投資銀行やファンド出身のメンバー、そして私のように長年地域企業に関わってきた弁護士。異なる領域で経験を積んだ人材が一堂に集まっていることは大きな特徴です。
特に金融機関出身者は、豊富な現場経験とネットワークを持ち、地域経済の実情を深く理解しています。金融機関が抱える課題意識を把握しているからこそ、机上の理屈ではなく、地に足の着いた提案や的確な対応ができる。そうした姿勢が「安心できる」「信頼できる」と評価され、案件のご紹介やご相談につながっています。
もう1つの大きな特徴は「企業ブランディング支援」です。経営改善や財務支援にとどまらず、企業や製品のブランド価値を高めるアプローチを積極的に取り入れている点は、他のファンドと差別化できる部分だと思います。実際に、電通でクリエーティブ部門のトップを務めてきた人物がメンバーとして加わり、マーケティングやブランド戦略の面から企業の成長を後押ししています。
アクシス
対応領域の広さが特徴ですね。
森様
そうですね。事業再生から事業承継、さらには成長支援まで、株主・経営者の課題意識に寄りそいながら、企業のシチュエーションに応じて柔軟かつ迅速に対応できる点は強みです。だからこそ、他のファンドでは検討されにくい案件でも「ここなら受け止めてもらえる」と評価いただくことが多い。これは経験豊富で多様なバックグラウンドを持つメンバーがそろっているからこそ実現できることだと思います。
医学部予備校、メーカー、ブランディング会社など、事業承継と再生で新たな成長曲線へ
アクシス
投資戦略についてお話しいただきましたが、実際の投資事例の中で、貴社の特徴を示す案件を教えていただけますか。
森様
私たちは2024年から本格的に投資を開始した段階で、まだ事例の数は多くないのですが、私たちの特徴を象徴する案件を3つご紹介します。
まず1つ目は、東京にある医学部受験予備校の事業承継案件です。この学校は医学部受験に特化した非常にニッチな業界で、これまで一定の実績とブランドを築いてきました。長年にわたり学院長であるオーナーが一代で立ち上げ、発展させてこられたのですが、事業承継のタイミングを迎え「自分が大事にしてきた価値を尊重し、さらに成長につなげてくれる相手」に託したいと考えておられました。
後継者候補として信頼できる人物はいたものの、経営全般をすぐに担うのはまだ難しい状況。そこで私たちが出資し、経営管理や成長戦略の面でサポートすることで、新体制への円滑な移行を実現しました。現在は新しい学院長を中心に次なる展開に向けて体制強化を図っているところです。
アクシス
―投資の背景として、地方の人材不足や医療への貢献という観点もあるのでしょうか。
森様
そうですね。予備校自体は東京にありますが、地方から通う生徒のために寮も設けられています。将来的に彼らが医師となり、地元で開業したり、親世代が築いた病院を継いだりすれば地域医療を支える人材を育成することにつながります。そうしたサポートを支援することも、投資意義の1つだと考えています。
アクシス
2つ目の事例についても教えていただけますか。
森様
2つ目は、大阪にあるプラスチック樹脂加工メーカーの事業承継案件です。オーナーは60歳前後で事業承継を考えておられましたが、そのタイミングで取引先の破綻などで国内売り上げにも影響が出ていました。そのため、事業承継に加えて国内事業の立て直しや営業面の強化といった課題も同時に解決する必要がありました。
ただ、この会社はもともと非常に高い技術力を持っており、優秀な従業員も多く、危機を乗り越えれば必ず成長の道筋を描けると考えました。そこで私たちは、社外から経営人材を招き、メーカー系の大手企業で長年にわたりグループ会社の事業成長をリードしてきた人物を経営人材として招聘し、情報収集から戦略立案、実行までの陣頭指揮を一任しました。その後、彼が正式に代表者となり、現在は事業成長の推進力として活躍しています。
この事例は「経営課題に応じて必要な人材を招き、新たな伸びしろをつくる」という私たちのスタイルを象徴するような案件です。従業員の表情も訪問する度に明るくなっており、組織として非常に前向きな方向に進んでいると実感しています。
アクシス
3つ目の事例についてもお聞かせください。
森様
3つ目は、東京にある企業ブランディングを手がける会社の事業承継案件です。代表は40代と若く、さらなる成長戦略を描くうえで「経営管理の強化」と「営業の拡大」が課題となっていました。
この案件では、当社のブランディングディレクターである足達を経営面に送り込みました。前述の通り、彼は電通でクリエーティブ部門を率いてきた経験があり、コピーライティングや大手企業とのネットワークに強みを持っています。もともとこの会社は映像やビジュアル制作面に強みを持っていましたので、足達のスキルやノウハウを掛け合わせることで、これまでの領域を超えた新しい市場に打って出られる体制を整えました。
それから、私たちが関与している投資案件の中には、地域の老舗企業が手がけるプロダクトや商品を、いかに全国区へ展開していくかというテーマを扱ったものもあります。「各地域の企業や商品のブランディングを支援し、全国展開を後押しする」取り組みもすでに始まっており、地域に根ざしながら、事業承継と再生の両面を支援していることも、私たちの投資活動の大きな特徴です。
1号ファンドを経て、次は倍規模の2号ファンドへ。高まる地域ニーズにスケールアップで応える
アクシス
今後の展望を教えていただけますか。
森様
おかげさまで順調に案件のご相談をいただいており、現在の1号ファンドにご出資いただいている資金も着実に投資を進めており、大半を消化する見通しです。そのため、次のステップとして2号ファンドの組成を視野に準備を始めています。
現在の1号ファンドは規模が百数十億円ですが、2号ファンドはその倍程度の規模感を想定しています。コンセプトである「中堅・中小企業の成長局面で事業成長に貢献する」という基本姿勢は変わりませんが、ファンドサイズが大きくなることで、これまで共同投資で対応してきたような案件にも、単独でしっかり投資できる体制を整えていきたいと考えています。
また、事業承継や上場企業の資本政策といった、より成長性や複雑性のある投資ニーズも増えてきています。こうした幅広い相談に応えていくためには、資金面だけでなく人的リソースの強化も欠かせません。そのため、採用にも力を入れ、体制をさらに拡充していく予定です。
アクシス
改めて、御社が社会に果たすべき役割や意義はどう捉えていますか。
森様
コロナやウクライナショックといった突発的な要因はいったん落ち着きましたが、現在も地域の中堅・中小企業を取り巻く環境は依然として厳しい状況にあります。金利上昇や国際関係、関税の問題など新たなリスクが生まれており、特に借り入れが多い企業では返済負担の増加や資金調達のハードル上昇が顕著です。
そうした中で、地域企業からは資金面での期待やニーズがますます高まっていると感じます。ただ資金を供給するだけでは十分ではなく、私たちがエクイティで関与し、経営課題に対してソリューションを提供すること、たとえば経営人材の招聘やノウハウの共有、ネットワークの活用──そうした「ファンドならではの機能」を通じて企業が自分たちだけでは乗り越えられない壁を突破していくことに、大きな期待をいただいています。
また、全国規模の大手ファンドは100億円単位の大型投資を行いますが、各地域には数億円から数十億円規模の資本注入で大きく成長できる企業が数多く存在します。まさにその領域を私たちが担うことに、地域企業や地域金融機関からの期待が寄せられています。
さらに、地域金融機関も政府の後押しを受けて投資専門子会社を設立したり、コンサルティング機能を強化したりと、企業成長支援に取り組んでいます。しかし、現実にはノウハウや経験を持つ人材が不足しており、人材育成の面では課題が残されていると伺っています。私たちの会社には、金融機関から複数のトレーニーを受け入れており、1年から2年間、実際の投資経験を積んでいただいています。そうした意味でも、地域金融機関との連携や人材育成において、まだまだ貢献できる領域は大きいと考えています。
少人数で案件全体をリード。若手が投資と経営の最前線でキャリアを磨ける希少な環境
アクシス
最後に、御社で働くことで得られるメリットについてお聞かせください。御社では若手にとって大きな成長の機会があるように思います。
森様
私たちのファンドでは、大きなクジラのしっぽの先だけに関わるような部分的な仕事ではなく、少人数チームで案件全体に深く関与するスタイルを取っています。多い案件でも3〜4名体制。入り口の初期検討から投資実行、さらにPMIまで、若いメンバーも主体的に関わり抜くことができます。つまり、将来「これが自分の関わった案件です」と胸を張って言えるような経験を積むことができるのです。これは将来のキャリアにとっても大きな財産になります。
さらに、ファンドの運営そのものである投資戦略の立案や資金調達、運営体制の構築といった部分も、間近で学び、経験できる環境があります。成長中のファンドだからこそ、組織が拡大していく過程に立ち会い、共に形づくっていく面白さを体感できる。地域の企業に向き合いながら、投資の最前線で案件をリードし、ファンドマネジメントにも触れられる。そうしたダイナミックな経験を通じて、一人ひとりが確実に力を付けていける場だと思います。

企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)の設立から関与し、多くの再生案件を支援。LM法律事務所(現LM虎ノ門南法律事務所)に復帰後は事業再生ADR、中小企業活性化協議会の案件などの私的整理案件を統括。同時に投資ファンドのアドバイザー、上場企業の部門M&A支援を行う。
2022年にトパーズ・リージョナル・パートナーズを設立後、代表取締役・ファンドの投資委員に就任。

トパーズ・リージョナル・パートナーズ(TRP)は、「ずっとつづく、強く価値ある企業を、地域にもっと。」というミッションを掲げる地域企業支援のスペシャリスト集団。2022年の設立以来、地域企業の価値向上と次世代への事業承継を通じて、地域独自の魅力的な雇用創出と地域づくりを支援しています。エクイティを活用したソリューションで、業種・地域を問わず中堅・中小企業の課題解決と成長を支援。多様な経験を有するプロフェッショナルメンバーによるハンズオン支援が特徴で、新たな資本・資金提供、事業計画策定、経営体制強化を一気通貫でサポート。地域企業の株主・経営者に寄り添いながら、メンバーが構築した多様な業界・業種ネットワークを最大限活用し、地域経済の担い手である企業の経営改善にコミットしています。

アクシスコンサルティングは、コンサル業界に精通した転職エージェント。戦略コンサルやITコンサル。コンサルタントになりたい人や卒業したい人。多数サポートしてきました。信念は、”生涯のキャリアパートナー”。転職のその次まで見据えたキャリアプランをご提案します。