地域の力を信じる ― 弁護士出身のPEファンドCEOが語る『持続可能なエコシステム構築』【PHILOSOPHY─経営者の思考とキャリア─ vol.01】/トパーズ・リージョナル・パートナーズ 代表 森 直樹氏独占 インタビュー

地域の力を信じる ― 弁護士出身のPEファンドCEOが語る『持続可能なエコシステム構築』【PHILOSOPHY─経営者の思考とキャリア─ vol.01】/トパーズ・リージョナル・パートナーズ 代表 森 直樹氏独占 インタビュー

変化の激しい現代において、企業や組織を率いる経営者たちは、どのような哲学を持ち、いかなる判断基準で意思決定を下しているのでしょうか。彼らのキャリアを辿ることで見えてくる、経営の本質とは何なのでしょうか。

このシリーズでは、各分野で独自のポジションを築く経営者たちの「PHILOSOPHY(哲学)」に迫ります。単なる成功事例の紹介ではなく、その根底にある思考プロセス、価値観の形成過程、そして困難な局面での判断の背景を深く掘り下げていきます。

第1回目となる今回は、トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社(以下、トパーズ・リージョナル・パートナーズ)の代表取締役として地域企業向けプライベートエクイティファンドを率いる森直樹様にスポットを当てます。

弁護士として大型倒産案件に携わり、企業再生支援機構での実務を経験し、地域企業への「資本と知恵の伴走支援」を掲げるファンドの設立まで。一貫して企業の「再生」に関わり続けてきた同氏が、コロナ禍で確信した「資本機能の限界」とは何だったのでしょうか。
地域(企業)の力を信じる──その信念を支える哲学と、新たな挑戦への思いを伺いました。

弁護士時代から抱いた『資本で地域企業を支えたい』思い―コロナ禍で顕在化した融資の限界が後押し

アクシス
まずは、これまでのご経歴を教えていただけますか。

森様
2001年に弁護士として登録し、最初に所属した事務所では、瀬戸英雄弁護士(倒産・事業再生分野の第一人者)のもと、大型倒産案件を中心に実務経験を積みました。

当時は不良債権処理が大きな社会課題となり、大手企業が次々と破綻に追い込まれる時代でした。会社更生や民事再生の案件が相次ぐ中、私自身も大手スーパーマーケットの会社更生案件を担当したことをきっかけに、事業再生の世界に本格的に関わるようになりました。

ちょうどその頃、弁護士の役割も変化し始めており、案件の大型化・複雑化に伴って、弁護士だけでは対応しきれないケースが増えていました。公認会計士やコンサルタント、M&Aの専門家、さらには金融機関など、他の分野の専門家と連携しながら、チームで再生案件に取り組むスタイルへと移行していった時期でもあります。

アクシス
その後、企業再生支援機構の創設に携わられていますね。

森様
はい。2009年に現在のREVIC(地域経済活性化支援機構)の前身であるETIC(企業再生支援機構)が創設され、初代委員長として瀬戸弁護士が就任しました。私は内閣府参与として立ち上げ段階から参画し、その後、事務所から出向してディレクターを務めました。

半官半民の組織として、金融機関から債権を買い取り、必要に応じて資本を注入するなど、ファンド機能を通じた地域企業の再生支援を経験しました。ここで培った経験や視点は、今の仕事にも大きく生きていると感じています。

アクシス
企業再生支援機構から事務所に戻られたあとは?

森様
2012年に事務所へ復帰してからは、裁判所を介さずに金融機関の調整によって会社を立て直す「私的整理」の案件が増えていき、私はその統括を任されていました。

その過程で、トパーズ・キャピタルの創業メンバーの松田清人氏、新村健氏らと出会い、日本初のプライベートデットファンドを展開している同社のアドバイザーを務めるようになりました。その後、現在の共同パートナーである吉戒孝の紹介を受け、ご縁がつながっていきました。

アクシス
そこからトパーズ・リージョナル・パートナーズ設立につながるわけですね。

森様
そうです。当時はちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、地域の中堅・中小企業を取り巻く環境が急激に変化していました。トパーズ・キャピタルが展開していたのは、「プライベートデット」という融資型のファンドでしたが、そうした状況下では、融資だけでは対応しきれない経営課題が次々と顕在化してきたのです。

つまり、単にお金を貸すだけではなく、企業のPLを改善し、事業価値そのものを高める“エクイティ性資金”を地域企業に届ける必要があるのではないか。松田氏や吉戒氏の間でそうした問題意識での議論が進んでいて、私にも「新たにエクイティファンドを立ち上げたいのだがどうだろう」とお話をいただきました。

私自身も当時、アドバイザーとして私的整理を数多く手がける中で、 “資本機能の不足”、” 借入れの返済猶予は受けられてもPLが改善されない手詰まり感”をまさに現場で痛感していたので、両氏とは問題意識の面でもすぐに意気投合しました。

そして、これまで地域企業と深く関わってきた経験、企業再生支援機構での実務、そして弁護士としての視点。そのすべてを踏まえ「旗振り役を担うことに意味がある」と評価をいただき、私自身も挑戦を決意したのです。

実は、企業再生支援機構に携わっていた頃から、「いつかは資本を持って自分自身の責任判断で地域企業の再生・成長を後押しするような役割を担う機会があれば引き受けたい」という思いを抱いていました。その流れを受け、2022年8月にトパーズ・リージョナル・パートナーズの代表取締役に就任することとなりました。

森様

『売り上げはあるが成長の道筋が見えない』地域企業―伴走型エクイティ支援で強みを引き出す

アクシス
トパーズ・リージョナル・パートナーズの企業理念についてお聞かせいただけますか。

森様
私たちは、地域の中堅・中小企業の成長局面において、ファンドとして関与し、事業の成長を後押しすることで企業価値を高めていくことを目指しています。さらに、そうした取り組みを通じて地域経済の活性化や雇用の創出にもつなげていき、最終的には投資家の皆さまに適切なリターンを提供すること。これが私たちのミッションです。

アクシス
そうした企業理念に至った背景について教えてください。

森様
この理念は、先ほどお話しした設立の経緯と深くつながっています。構想を練っていたのは、ちょうど新型コロナウイルスの感染が拡大し、経済活動が大きく制限されていた時期でした。売り上げの減少や事業活動の一時停止を余儀なくされる企業が相次ぎ、経営への不安は一気に高まっていました。

さらに、ウクライナ情勢の悪化や資源価格の高騰といった外部要因も重なり、経済環境は一層不安定になっていきました。資金ニーズは非常に高まっていた一方で、金融機関は既存債務の返済猶予に応じても、新たな資金を供給するには慎重な姿勢を崩しませんでした。事業会社や既存のファンドも、スポンサー支援に二の足を踏んでいる状況でした。

その中で私たちは「今こそ地域企業に必要なのはデット(融資)ではなく、エクイティによる伴走型の支援ではないか」と強く感じるようになったのです。

かつての不良債権時代のように財務基盤そのものが傷んでいるわけではありません。むしろ、外部環境の急変によって一時的にキャッシュフローが止まり、前に進めない企業が多く存在している。そうした企業に私たちが資本を供給し、PL(損益計算書)を改善することで、将来的な返済余力や投資余地が生まれ、再び成長の軌道に乗ることができるのではないかと、そこに私たちファンドの役割があると確信しました。

アクシス
実際に事業をスタートされてみて、どのような手応えを感じていますか。

森様
もちろん、資金提供によって一時的な窮地を支えるケースもあります。しかし、私たちの本質的な役割は、資金を投じることにとどまりません。資本に加えて経営ノウハウやネットワークといったリソースを提供し、企業の持続的な成長を支えていくことが私たちの使命だと考えています。

実際、地方には「一定の売り上げや利益はあるが、この先どう成長してよいか分からない」「後継者がいない」といった課題を抱える企業が少なくありません。そうした企業が次のステージに踏み出せるよう、私たちが伴走し、強みを引き出していく。その結果として、雇用が生まれ、人材が集まり、資金が循環する。そうした地域経済の持続可能なエコシステムづくりに貢献することこそが、私たちの存在意義だと考えています。

※トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社については下記の記事で詳しく伺っております。
「トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社 CEOインタビュー/“地域価値創出”PEファンドが目指す「地方経済の未来を変える」新たな資本供給モデル」

弁護士出身の経営者が大切にする『信頼の土台』―誠実さが生む持続可能な関係性

アクシス
現在、企業を経営する上で、森様が大切にされている信念や価値観についてお聞かせください。

森様
「経営者だから」ということに限らず、私はどの立場においても、誠実に物事に取り組むことを大切にしてきました。人を裏切ったり欺いたりせず、与えられた責任や役割に対して愚直に真摯に向き合うこと。それが結果として信頼を得る上で最も重要だと考えています。そして、こうした姿勢はビジネスの現場でも常に問われていると感じています。

アクシス
誠実に向き合う姿勢が、企業や経営者との関係構築においても大切ということですね。

森様
おっしゃるとおりです。経営者やオーナーの皆さんは、それぞれの立場で本当に懸命に事業に取り組まれています。私たちはあくまで「支援する側」「提供する側」として存在しているわけで、相手を軽んじたり、ないがしろにしたりすることがあってはなりません。常にリスペクトを持って向き合うことが大事になります。

弁護士時代から一貫して意識してきたのは、法律的に正しい解決を導くだけでは不十分だということ。相手の立場に立ち、その思いや価値観を尊重する姿勢がなければ、真の解決には至りません。そうした経験が、今のファンド運営における「誠実さ」や「リスペクト」の根底にあると思います。

やや理想論に聞こえるかもしれませんが、私がこの会社の代表を引き受けるにあたっても、「地域経済には課題も多く、時に厳しい現実もあるけれど、それでも地域が持つ強さ、人々が守り続けてきた価値、未来に向けた可能性を信じて挑戦していく」という思いがありました。あきらめず、前を向いて地域のもつ可能性を追求していくことが私のスタンスです。

アクシス
組織を運営していく上で、社内に対して大切にされていることは何でしょうか?

森様
私たちの会社には、金融機関やファンド、コンサルティング業界出身者、事業会社で投資や経営企画を担ってきた人材、さらに地域金融機関からの出向者まで、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。

私が意識しているのは、そうした多様な人材がここでの経験を通じて成長し、会社の内外を問わず次のステージでも生かせる環境や案件を提供することです。最終的には、経済的にも精神的にも満足を得られる場所にしていくこと。自分のやりたいことに挑戦でき、やりがいを感じられる。そう思ってもらえる組織をつくることが、私の責任だと考えています。

森様

『単なる資金供給では限界』の時代に―資本と知恵の伴走支援で地域企業と壁を共に越える

アクシス
今後の展望についてお聞かせください。

森様
現在運用している1号ファンドは、ありがたいことに順調に案件のご相談をいただいており、投資枠の大半が見えてきました。そこで現在は、2026年に予定している2号ファンドの立ち上げに向けた準備を進めています。

引き続き「地域の中堅・中小企業の成長フェーズに資本で関与し、企業価値を高める」という基本方針は変わりませんが、ファンド規模を拡大することで、より大きな企業にも単独で対応できる体制を整えていきます。

それに伴い、人材体制も強化中です。これまでの実績を踏まえて経験豊富な人材の採用活動を進めるとともに、既存メンバーにとっても成長機会を提供し、より広範なニーズに応えられる組織づくりを進めています。

アクシス
ミドル・スモールキャップのPEファンドの持つ可能性や、社会的な意義についてはどうお考えですか。

森様
コロナやウクライナショックといった突発的な要因は落ち着きつつありますが、地域の中堅・中小企業を取り巻く環境は依然として厳しさを増しています。金利上昇や国際関係、関税の問題など、次々と新たな課題が現れる中、とくに借り入れ依存度の高い企業では資金繰りの難易度が高まっています。

だからこそ、私たちに求められているのは単なる資金供給ではありません。経営人材の招聘やノウハウの提供、ネットワークの活用といった「資本と知恵の伴走支援」によって、企業が自力では乗り越えにくい壁を共に越えていく。その役割を果たしていきたいと思っています。

大規模ファンドが担う領域とは異なり、私たちがフォーカスするのは、数億〜数十億円の資本投入で大きく飛躍できる地域企業です。そこにこそ成長の余地があり、私たちが力を発揮できるフィールドがあります。

また、地方を支える地域金融機関との連携もますます重要になっています。共同投資やトレーニーの受け入れを通じて、投資の実務経験を積む場を提供し、投資・事業成長ノウハウの獲得や人材育成の面でも貢献していく。そうした循環を広げることで、地域全体の経済エコシステムに厚みを加えていけると信じています。

代表取締役 パートナー(弁護士)森直樹様 トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社

企業再生支援機構(現地域経済活性化支援機構)の設立から関与し、多くの再生案件を支援。LM法律事務所(現LM虎ノ門南法律事務所)に復帰後は事業再生ADR、中小企業活性化協議会の案件などの私的整理案件を統括。同時に投資ファンドのアドバイザー、上場企業の部門M&A支援を行う。
2022年にトパーズ・リージョナル・パートナーズを設立後、代表取締役・ファンドの投資委員に就任。

トパーズ・リージョナル・パートナーズ株式会社

トパーズ・リージョナル・パートナーズ(TRP)は、「ずっとつづく、強く価値ある企業を、地域にもっと。」というミッションを掲げる地域企業支援のスペシャリスト集団。2022年の設立以来、地域企業の価値向上と次世代への事業承継を通じて、地域独自の魅力的な雇用創出と地域づくりを支援しています。エクイティを活用したソリューションで、業種・地域を問わず中堅・中小企業の課題解決と成長を支援。多様な経験を有するプロフェッショナルメンバーによるハンズオン支援が特徴で、新たな資本・資金提供、事業計画策定、経営体制強化を一気通貫でサポート。地域企業の株主・経営者に寄り添いながら、メンバーが構築した多様な業界・業種ネットワークを最大限活用し、地域経済の担い手である企業の経営改善にコミットしています。

アクシスコンサルティング

アクシスコンサルティングは、コンサル業界に精通した転職エージェント。戦略コンサルやITコンサル。コンサルタントになりたい人や卒業したい人。多数サポートしてきました。信念は、”生涯のキャリアパートナー”。転職のその次まで見据えたキャリアプランをご提案します。

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