デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ECMMユニット インタビュー【第1回:トップパートナー対談】 /「青い経営、赤いIT」エネルギー・化学業界の構造転換を攻略する”二刀流”の実態

カーボンニュートラルという世界的潮流が、日本の製造業に根本的な構造転換を迫っています。特に化学・素材産業は、高いCO₂排出量ゆえに事業ポートフォリオの大胆な見直しが不可欠となり、売り上げ規模が半減するリスクを抱えながらも大型の事業売却やM&Aに踏み切る企業が相次いでいます。一方で、デジタル変革の波も押し寄せ、これまでIT投資が金融などの他業界と比べ遅れていた素材産業では、基幹システム刷新やAI活用による製造プロセス革新が急務となっています。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)のECMM(Energy & Chemicals, Mining & Metals)ユニットは、こうした業界の大変革期において、経営戦略を担う「青」のチームとオペレーションITを統括する「赤」のチームが連携し、戦略立案から実行まで一気通貫の支援を提供しています。15年以上にわたって業界に特化してきた同ユニットには、現在約110名の専門コンサルタントが在籍し、業界の「重要案件」が集まる信頼関係を築いています。今回は、ECMMユニットをリードするパートナーの森田哲平様と日下部健太様に、化学・素材業界の構造転換の実態、デロイト トーマツならではの業界特化戦略、そして急拡大する組織の人材育成方針について詳しくお話を伺いました。
※2025年8月時点での内容です
Index
「業界特化」構想に惹かれ、素材産業ユニットをゼロから創設
アクシス
では、まずはお二方のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
森田様
新卒で外資系総合コンサルティングファームに入社し、10年ほど経験を積みました。今でいうストラテジーチームに所属し、小売りや自動車、消費財業界を担当した後、素材産業の分野を専門に手掛け、2010年にDTCに転職しています。
当時のDTCは社職員数およそ700名規模の中堅ファームで、私は当初、全く別の事業会社への転職を検討していました。そんな中、DTCが掲げていた「業界ごとに専門チームを編成し、より質の高いコンサルティングを提供する」という構想に強く惹かれたのです。加えて、当時の代表から「素材産業ユニットを立ち上げてみないか」と声をかけていただいたことが大きな転機となりました。新しい挑戦に面白みを感じ、立ち上げメンバーとして参画したのが始まりです。
アクシス
前職には、当時インダストリー別の組織はなかったのでしょうか。
森田様
いえ、組織自体はありました。ただ、当時は、SI(システムインテグレーション)やBPOといった大型ディールに大きくシフトする時期で流れが変わってきているのを感じ、このままではクライアントのニーズに合ったサービスを提供しにくくなるのではないかという葛藤がありました。そこに、より専門性を深められるDTCの方針がマッチしたというのが、転職を決めた理由です。

アクシス
日下部様のご経歴を教えていただけますか。
日下部様
私は新卒で日系総合コンサルティングファームに入社し、2012年にDTCに転職しました。前職時代は戦略チームに所属していましたが、実際には営業やサプライチェーンの業務改革、ERP導入の構想策定といったオペレーション寄りの案件がメインで、ここからもう少し幅広い経験を積みたいという思いが強くなったことが転職のきっかけです。
アクシス
DTCでは、入社直後から現在のECMMユニットに所属されたのですか。
日下部様
そうですね。たまたま前職時代に1年半ほど金属メーカーの案件を担当していたことがあり、その経験が縁となってECMMにアサインされた形です。結果的に、この領域の面白さに惹かれ、今は主にIT分野を中心にオペレーションITの領域を統括しています。

経営コンサル(青)×オペレーションIT(赤)で産業構造の変革に挑む
アクシス
現在のECMMユニットの組織概要についてお伺いできますでしょうか。
森田様
ECMMのメンバーは現在およそ110名(2025年8月現在)です。内訳としては、化学(ケミカル)分野が最も大きく、全体の半分強を占めています。続いてオイル&ガスが約3割、残りが金属・鉱業(メタル&マイニング)という構成です。
アクシス
ユニット内はサブチームに分かれているのでしょうか。
森田様
はい。化学業界と鉄鋼業界では課題もプレーヤーも大きく異なりますし、石油元売り業界もまた別の特性があるため、サブインダストリーごとにチーム編成しています。
さらに、ECMM業界の経営課題の核心に切り込むには、ソリューションで専門性を分けることが重要です。そこで、経営戦略やポートフォリオ改革などを支援する「経営コンサルティング系」のチームを「青」(社内通称)、オペレーションITやシステム刷新を主導する「オペレーションIT系」のチームを「赤」(社内通称)と呼び、2つの軸で体制を整えています。
アクシス
改めて、現在ECMMユニットではどのような課題に取り組まれているのか、業界の動向も含めて教えていただけますか。
森田様
まず前提として、素材産業は日本の製造業の中でも数少ない、グローバルで競争力を維持している領域の1つです。個別の事業や製品単位で見れば、世界トップシェアを誇るものも多く、国家の産業基盤を支える極めて重要な業界だと考えています。
一方で、素材産業は今大きな構造転換を迫られています。その最大の要因がカーボンニュートラルへの対応です。2050年カーボンニュートラル達成が各国で標準目標となり、日本企業も産業構造の見直しを迫られています。
特に素材産業は、製造業・エネルギー転換部門を含め高い比率を占め、排出削減は最優先課題です。中でも大量生産型の汎用品事業はエネルギー消費が大きく、排出削減が不可欠。こうした領域の再編と、低エネルギーで製造可能な高機能製品へのシフトが、現在の大きな課題です。
アクシス
具体的には、どのような取り組みが進められているのでしょうか。
森田様
代表的なのが事業ポートフォリオのトランスフォーメーションによる事業売却です。たとえば、売り上げ規模は大きいものの低収益でCO₂排出量の多い事業を切り出す決断が必要になることもあります。その結果、売り上げが最大で半減するケースもあり、そのギャップを埋めるためにM&Aを含めたポートフォリオ再編が求められます。ファイナンスに強みを持つデロイト トーマツ グループが力を発揮できる領域ですね。
また、もう1つの重要テーマはDXやAIの活用です。素材産業はこれまでオペレーションIT投資が遅れていたため、ここ数年で急速にキャッチアップが進んでいます。
アクシス
日下部様の観点から見て、IT領域においてはどのようなテーマが多いでしょうか。
日下部様
具体的には、基幹システムの刷新、データ統合やプラットホーム構築、さらにAIを活用したオペレーションの高度化が中心です。特に化学業界では、1兆円、2兆円規模の大手企業であっても事業別に独自のシステムを構築してきた結果、全社的にシステムが分断されているケースが多く見られます。このままでは迅速な意思決定や効率的な運営が難しいため、プロセスの標準化やデータ基盤整備が急務となっています。実際、基幹システム刷新やデータ統合に取り組む企業が急増しています。
15年の実績で築いた「重要案件が集まる」理由とマルチファンクションの連携力
アクシス
化学・素材業界のチームは、Big4(会計系コンサルティングファームの最大手4社)をはじめ、他のコンサルティングファームでも立ち上がっていますが、DTCとの違い、差別化ポイントはどこにあるのでしょうか。
森田様
1番の違いは、案件の種類の豊富さと、重要度の高い案件を数多く任せていただいている点です。というのも、DTCは他のコンサルティングファームに先駆けてこの分野のチームを立ち上げ、すでに15年以上にわたり取り組んできた歴史があるからです。
その過程で「業界のエコシステム」に深く入り込み、知見や情報を積み上げてきました。その結果、クライアントで何か大きな動きがある際には、まず私たちに声をかけていただけるような信頼関係が築かれています。ここが大きな差別化ポイントだと思いますね。
アクシス
日下部様は、デロイト トーマツ グループの強みはどこにあるとお考えですか。
日下部様
デロイト トーマツ グループは、コンサルティングだけでなく、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)やデロイト トーマツ税理士法人(以下、DTTAX)など幅広いファンクションを備えており、複数の専門領域を横断した多面的なサービスを提供できる点が大きな強みだと考えています。
たとえば、あるIT導入プロジェクトで、研究開発部門のデータプラットホームをグローバルに展開する案件があり、プラットホームに格納するデータに関するIP(知的財産)の帰属や移転価格が税務上問題にならないかという論点が浮上したのです。その際、税理士法人と密に連携することでスムーズに解決できました。こうして各ファンクション連携しながらユニークな価値を提供できる点が、デロイト トーマツ グループならではの強みだと思います。
森田様
それは本当にその通りですね。そもそもクライアントやインダストリーとの接点を持っているのは、コンサルティング部門だけではありません。DTFA、DTTAX、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社(DTRA)、そして有限責任監査法人トーマツ(A&A)もそれぞれにクライアント様との強いリレーションを築いています。
2012年頃から、デロイト トーマツ グループ全体で「業界全体を一緒に盛り上げていこう」という動きが始まりました。これを我々はMDM(Multi-Disciplinary Model:多角統合モデル)と呼んでいますが、ECMMはその先駆けとして、この連携を強く進めてきました。最終的に大事なのは、クライアントにとって本当に経営効果のあるサービスを提供できるかどうかです。付加価値を高めるために、業界に深くコミットできるのは、こうした強い連携があるからこそだと考えています。
アクシス
法人が違う中で、なぜ連携がうまくいくのでしょうか。
日下部様
デロイト トーマツ グループでは、グループ全体で「独立性を守りながら協業する」という考え方が徹底されており、利益相反やコンプライアンスに配慮しつつ、複数の専門領域が連携してクライアントを支援する文化が根付いています。
また、パートナーの評価基準には、他ファンクションとどれだけ連携し、グループ全体の総合力を発揮できたかが明確に組み込まれています。こうした文化と仕組みの両方があるからこそ、部門を越えた協力体制が自然と機能しているのでしょうね。
森田様
そうですね。そして十数年にわたって築いてきた人間関係があるからこそ、複雑な案件でもスムーズにチームを組み、クライアントにとって本当に意味のあるサービスを提供できるのだと感じています。

黎明期のMI導入で研究開発の常識を変えた2年半の挑戦
アクシス
お二方が手掛けられてきた案件で、特に印象に残っている事例はありますか。
日下部様
ある素材メーカーにマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を導入したプロジェクトですね。MIとは、材料開発においてデータ解析や機械学習を活用し、最適な材料組成やプロセス条件を効率的に見つける手法をいいます。
当時、国内の素材メーカーではまだMIに対して懐疑的な見方が強く、「熟練技術者の経験と勘に勝るものはない」「データ解析だけで良い材料ができるはずがない」といった声が多くありました。そこで、まずはPoC(概念実証)からスタートし、一定の成果が得られた段階で、データ蓄積と解析の両方を担うプラットホームの構築へと進めました。
このプロジェクトでは、外部が解析を代行するのではなく、自社内の研究員が自律的にデータ解析できるようになることを目標に据えました。DTCのデータサイエンティストが伴走し、現場に寄り添いながら仕組みづくりと人材育成を同時に進めました。
その結果、約2年半にわたるプロジェクトで約300名の研究員のうち約50名がMIを自在に活用できる人材となり、開発サイクルが自律的に回る体制が実現。国内のMI普及を加速させる先駆的な事例となり、経営戦略の中でMIが重要な柱として位置付けられるまでに至ったのは、大きな成果だったと思います。まさに、戦略策定から実行まで一気通貫で価値を出せた象徴的な案件でした。
アクシス
黎明期のソリューションにもかかわらず、なぜそこで価値を発揮できたのでしょうか。
日下部様
やはり大きかったのは技術力です。プロジェクトには、大学でMIを専門的に研究し、その後研究機関で実務経験を積んだメンバーが在籍しており、彼を中心に据えて進めることができました。これによって、スタート段階から非常に高いレベルで取り組めたのは大きな強みでした。
また、今回の経験を活かし、今後はインダストリー知見とデジタルITの両面をかけ合わせたアセットを整備し、他の案件にも横展開できるような形にしていきたいと考えています。

アクシス
森田様が、特に印象に残っている事例はありますか。
森田様
具体的な案件名は挙げられませんが、ここ5年以内にあった非常に大型の業界再編や新規の買収案件で、企画段階から実行まで一貫してご支援できたプロジェクトが特に印象に残っています。
こうした案件は頻繁に発生するものではありませんが、業界が大きく動いている今だからこそ、タイミング良く関われたのだと思います。業界全体やクライアント企業にとって大きな意味を持つ取り組みに携われるのは、非常にやりがいがあり、まさにコンサルタント冥利に尽きる経験でした。
アクシス
ECMM業界でコンサルティングを行う面白さについて、改めてお聞かせください。
森田様
1番の魅力は、幅広いコンサルティングテーマに触れられることだと思います。化学・素材業界は、いわば「コンサルティングのデパート」のような存在で、BtoCのセールス&マーケティング領域を除けば、教科書に載っているようなコンサルティングテーマはほぼすべてここにあります。
また、この業界のエコシステムに深く入り込み、クライアントと長期的に伴走しながら課題解決に取り組む機会が多いのも特徴です。多様なテーマに挑戦できる環境で自己研鑽を積めるだけでなく、成果が業界全体に波及する手応えも得られるため、やりがいを強く感じられる領域だと思います。
ユニット独自の育成制度で専門性を確立、組織規模拡大を目指す
アクシス
今後の組織の方向性や、成し遂げたいことについてはいかがでしょう。
森田様
クライアントからのニーズは非常に多く、現状の体制だけでは応えきれていないと感じています。今後は戦略領域もオペレーション領域も、現在の3〜4倍規模まで拡大していきたいと考えています。
その中で特に重要なのがマネジャー、シニアマネジャー層の育成です。ECMMユニットでマネジャーになるには、厳しい内部基準を設け、一定レベルの実力が求められます。その質を保ちながらいかにマネジャー層を増やしていけるかが、組織拡大のカギだと思っています。
アクシス
育成に関して、ECMMユニット独自の取り組みなどはありますか。
森田様
はい。シニアコンサルタント以上の職位になると、経営コンサルティング系とオペレーションIT系で求められるスキルセットや経験が大きく異なります。そのため、昇進基準や必要な経験、トレーニング内容を明確に分け、専門性をしっかりと築けるよう制度を設計しています。
さらに、プロジェクトの現場でマネジャーが直接指導し、OJTを通じてリーダーシップを磨いていく文化も根付いており、これが実践力を伴った人材を育てる強みになっています。こうした育成を通じて、今後はより大規模かつ複雑な案件にも安定的に対応できる体制を築いていきたいと考えています。

IT経験を武器に、戦略と実行をつなぐ“真ん中”人材が活躍できる場所
アクシス
そんなECMMユニットが求める人物像についてお聞かせください。
日下部様
「センス・オブ・オーナーシップ」、つまり主体性のある方。それに尽きると思います。
ECMMユニットのメンバーは多様なバックグラウンドを持っており、事業会社で営業や研究に携わっていた方、戦略系・総合系・IT系などのコンサルティングファーム出身者など、経歴はさまざまです。ですが、主体性さえあれば、どのような経験からでも1人前のコンサルタントに成長できると考えています。
アクシス
面接では、その「主体性」をどのように見極めているのでしょうか。
日下部様
職務経歴書に書かれている内容について「なぜその行動を取ったのか」と問いかけ、自分の言葉で納得感を持って説明できるかを見ますね。ここが曖昧だと、受け身の仕事だった可能性が高いと判断できますから。さらに「もしあなたが決裁者だったらどう判断しますか?」といった質問も投げかけ、自分の頭で考え、意思決定できる素地があるかを確認しています。
こうした主体性に加えて、総合系コンサルティングファームなどでITを中心にキャリアを積んできた方は特に歓迎しています。IT経験を持つ方は、戦略領域とオペレーションIT領域の両方を理解し、橋渡し役となれる「両利きの人材」として活躍しやすいからです。将来的には戦略から実行まで一気通貫で支援できる中核人材として成長していただきたいと考えています。

森田様
私も同じく、主体性のある方を求めています。特に、自分から積極的に機会を取りにいける人ですね。今の経営コンサルタントは、より深く業界やクライアントに入り込まなければ、本当に意味のある経営相談には乗れない時代です。オペレーションITでも同じで、業界やクライアントの理解なしには価値を出しにくい。
もちろん、効率だけを考えれば横串対応でまとめた方が早いかもしれません。でも、それでは汎用化してしまって独自性がなくなります。だからこそ、各技術要素と業界知見をかけ合わせ、付加価値を生み出せる人材が必要です。オペレーションITの経験を活かし、さらに付加価値を高めたい方には、ECMMユニットは絶好の挑戦の場になるはずです。

主に化学・素材産業のグローバル競争力強化に向けて、全社/事業戦略、組織機構改革、新規事業戦略、技術マーケティング、SCM・CRMオペレーション改革、各種DX/ITソリューション導入など幅広い領域における支援を実施

素材・化学系企業を中心として、事業戦略・新規事業・オペレーション改革の構想策定~実行までの支援経験を多く持つ。近年は素材・化学系企業向けのDX案件を多く手掛ける。素材・化学業界向けのDXに関する講演も多数実施

DTCは国際的なビジネスプロフェッショナルのネットワークであるDeloitte(デロイト)のメンバーで、日本ではデロイト トーマツ グループに属しています。DTCはデロイトの一員として日本のコンサルティングサービスを担い、デロイトおよびデロイト トーマツ グループで有する監査・税務・法務・コンサルティング・ファイナンシャルアドバイザリーの総合力と国際力を活かし、あらゆる組織・機能に対応したサービスとあらゆるセクターに対応したサービスで、提言と戦略立案から実行まで一貫して支援するファームです。4,000名規模のコンサルタントが、デロイトの各国現地事務所と連携して、世界中のリージョン、エリアに最適なサービスを提供できる体制を有しています。

アクシスコンサルティングは、コンサル業界に精通した転職エージェント。戦略コンサルやITコンサル。コンサルタントになりたい人や卒業したい人。多数サポートしてきました。信念は、”生涯のキャリアパートナー”。転職のその次まで見据えたキャリアプランをご提案します。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の求人情報
| 募集職種 | ECMM(エネルギー、素材化学、鉄鋼領域) |
|---|---|
| 職務内容 | 素材/オイルガス/鉄鋼産業向けコンサルティングサービス |
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