「アクセンチュアからの起業」株式会社Gooser代表・伊藤氏が語る独立のリアルと成功の鍵

元アクセンチュア株式会社出身で、現在は株式会社Gooser 代表取締役を務める伊藤 広さんにインタビューを行いました。
出版→IT→アクセンチュア→独立起業という多彩なキャリアを持つ伊藤さんが語るコンサル出身者のリアルな選択肢とは。転職・独立・起業…その「後悔しない決断」のヒントを得たい方は必見です。
ファーストキャリアから独立まで、「キャリアを“誰か”に委ねない働き方」について、お話を伺いました。
ゲスト:伊藤 広(株式会社Gooser 代表取締役)
株式会社Speeeにてクライアントのデジタルマーケティング推進支援に従事。その後アクセンチュアにて新規サービス構想、業務改善、人材開発支援などを行い、2022年に株式会社Gooserを設立し現在に至る。
モデレーター :藤澤専之介

Index
ファーストキャリアからコンサル業界への転身まで
藤澤(モデレーター): 伊藤さんは、ファーストキャリアは別の業界にいらっしゃったとのことですが、コンサル業界に入る前は、どのようなキャリアを歩まれていたのでしょうか。
伊藤さん:大学卒業後は出版系の専門商社に新卒で入社をしました。その後、よりスピード感のある仕事を求めてITベンチャーに転職し、Web広告を中心としたコンサルティング業務に携わっていました。
藤澤:そこからどのような流れでコンサルティングファームに入られたのでしょうか。
伊藤さん:大学を卒業して最初に入社した出版系の会社は、良くも悪くも日本の昔ながらの企業という感じで、働いていく中で「もっとスピード感のある仕事がしたい」と感じるようになり、真逆のITベンチャーに転職しました。
そこでWeb広告を中心としたコンサルティング業務を行っていたのですが、Web広告限定の支援をしていく中で、「どうしても解決できる課題の範囲が狭い」と感じるようになってきました。より総合的に支援ができる立場を求めて、総合系のコンサルティングファームに転職しました。
総合系コンサルに入って気づいたこと
藤澤:総合系のコンサルファームもさまざまな特徴がありますが、どちらの企業に転職されたのでしょうか。
伊藤さん:アクセンチュア株式会社に入社しました。
藤澤:なぜ、アクセンチュアを選ばれたのでしょうか。
伊藤さん:当時、規模が急拡大しており、社内に蓄積されたナレッジが圧倒的に多いと感じたからです。実際に社員の方々とも話をして、得られるものが多いと判断しました。
藤澤:ナレッジ的な観点で選ばれたとのことですが、実際に入社してから感じたことはありますか。
伊藤さん:やはり情報がしっかりあり、オープンな社風でした。「情報をください」と言えば、どんどん共有してくれる環境がとても良かったです。ただし、思ったよりも体系化されていなかったので、必要なナレッジを得るためには、有識者を辿る力も必要でした。
コンサルファームによっての違い
藤澤:それぞれのコンサルファームについて、同じように見えてしまう方もいらっしゃるかと思うのですが、実際にアクセンチュアに入社されて、他のファームとの違いは感じましたか。
伊藤さん:私はアクセンチュアしか経験していないので比較は難しいですが、人数規模が大きくて部署が多岐に渡り、1社の中で役割分担をして仕事が続いていくのが特徴であり、良いところだったと思います。
藤澤:いい意味で領域が分かれて分業されているという感じなのですね。逆に改善点だと感じる部分はありましたか。
伊藤さん:採用拡大の影響で、全体のレベルが一定より低下した時期はあったと思います。マネージャーになると、社内でプロジェクトチームメンバーの面接をしてチームを組むのですが、なかなかメンバーのレベルに達する方がいなくて、苦労することもありました。
藤澤:就業環境はいかがでしたか。
伊藤さん:年々改善されている印象です。私がいた5年前の時点でも、コンサルの激務イメージは払拭されていて、働き方への配慮は十分ありました。
藤澤:コンサル業界に飛び込まれて、最初に苦労されたことは何ですか。
伊藤さん:資料作成のお作法です。明文化されていない“当たり前”を上司からのプレッシャーの中で学ぶのが大変でした。
コンサルファームに入って身に付いたスキル
藤澤:コンサルファームに入社されると、どのようなスキルが身に付くのでしょうか。
伊藤さん:コンサルファームにもさまざまな種類があるので、どこに入るのかにもよりますが、私のいた総合ファームであれば、全方位的にビジネススキルが底上げされました。思考力、資料構成力、経営層との対話力など、ビジネスマンとしての基礎力が全体的に底上げされた感覚があります。
藤澤:1社目が出版社で、その後IT企業に転職されたとのことですが、前職の知識が生きたと感じる場面もありましたか。
伊藤さん:コンサルティングファームは、プロジェクトを一定自分で選べるので、最初に担当したプロジェクトは自分の元々の環境と親和性が高いところがいいと思っていました。Web広告関連で、前職の知見が生かせたと感じています。
独立を意識し始めたきっかけとは
藤澤:独立を意識されたのは、いつ頃だったのでしょうか。
伊藤さん:実は、元々独立を意識していたわけではありませんでした。ただ、周囲にフリーランスのコンサルタントとして働いている方々が増えてきて、「そういう働き方もある」と知ったのがきっかけです。それから、「自分もチャレンジしてみてもいいかもしれない」と思うようになりました。実際にその働き方を知ってから、2〜3カ月ほどで会社を「辞めよう」と決断しました。
藤澤:周囲のフリーランスコンサルタントの方々の何が影響して独立を考えられましたか。
伊藤さん:独立する際に1番大きかったのは、「仮に上手くいかなかったとしても、またコンサルティング会社に戻ってしっかりやっていける」という自信があったことです。つまり、心理的にもリスクはそこまで大きく感じなかったというのが正直なところです。
もう1つは、会社員でいると、会社から「このプロジェクトに入ってください」とアサインされることが多く、当然ながら「嫌です」と言い続けるのは難しい。自分で「こういうスキルを伸ばしたい」「こういうキャリアにしたい」と思っていても、なかなかプロジェクトを自分の意志で選べないところがあります。
独立するとそれがガラッと変わります。プロジェクトにどう関わるか、自分の責任で決められるようになります。その分プレッシャーもありますが、「こういうスキルを伸ばしたい」「こういうトレンドの案件に携わりたい」といった希望に沿ってキャリアを設計しやすくなります。これが、独立を決めた大きな理由の1つです。
藤澤:具体的には独立されてからどのようなプロジェクトを手掛けられたのでしょうか。
伊藤さん:企業のDX推進に関わる案件が中心です。最近は生成AIの業務適用など、先進テーマにも携わっています。
藤澤:アクセンチュア時代の経験が独立後に生きているスキルはありますか。
伊藤さん:特に生きていると感じるスキルは「構造的な考え方」です。独立後は相対するお客様のレイヤーが高く、部長や経営層の方々と直接やり取りする機会が多くなります。そういった方々に納得していただくためには、どんな段取りで仕事を進めるか、その“進め方”そのものが非常に重要になります。
もちろん、その構造の上にプレゼン資料の作り方や見せ方といったスキルが載ってくるのですが、まずは物事を前に進めていくための「推進力のある構造的な思考」が基盤として役立っていると感じています。
起業後の案件獲得の方法とは
藤澤:起業直後は案件を獲得するのも難しかったと思いますが、いかがでしたか。
伊藤さん:幸い、以前からの人脈に声をかけて案件を獲得できました。また、最初の数カ月はフリーランスコンサルタント向けのエージェントにも登録して、両軸で進めていったので、案件がなくなるという不安感もなくスタートが切れました。
藤澤:ちなみにスタートした後は、どのように業容を拡大していかれましたか。
伊藤さん:完全なアウトバウンドの新規営業ではなく、成果を出して他部署にご紹介いただいたり、同業の企業様と一緒にプロジェクトに入って繋がったりする中で徐々に拡大していくことができました。
大手ではできたが独立後にできなくなったこと
藤澤:大手時代にはできたけれど、独立後には難しくなったことはありますか。
伊藤さん:すぐに思い浮かぶのは2点です。1点目は「知見の蓄積」。大手では当然ながらプロジェクトの数が多く、その分ナレッジが社内に蓄積されていました。同じような業界で同じような課題に対して、「こういうアプローチをしたことがある」といった情報をすぐに得ることができました。誰かが必ず答えを持っている環境は、非常に心強かったです。
2点目は「人材の多様性とケイパビリティ」です。たとえば、「このプロジェクトにはAIに詳しい人が必要だ」となれば、社内を探せば必ずそういうスキルを持った人がいます。それによって、高度なテーマにも対応できる。独立後は、外部パートナーと新たに出会ってチームを組む必要があるので、プロジェクトの立ち上げに時間もかかりますし、扱えるテーマの幅や深さでは、大手に軍配が上がると思います。
大手ではできなかったが独立後にできたこと
藤澤:一方で、大手ではできなかったけれど、独立後に実現できたこともありますか。
伊藤さん:それは「自分の志向に合った案件を自分で選べる」ことです。自分が伸ばしたいスキル、やりたい方向性に沿った案件を、自ら選択してキャリアを形成できるのは大きなメリットです。これは大手ではなかなか難しい部分だったと思います。
独立・起業を振り返って思うこととは
藤澤:独立・起業をされた頃を振り返って、どのようなことを感じていますか。
伊藤さん:あの頃を振り返ると、やはり「これが100点ではない」と思う部分は正直あります。ただ、それも含めて大切な経験だったと感じています。実は障害福祉系の事業にも取り組んでいた時期があって。施設の運営も行っていましたが、最終的には別の企業に譲渡しました。
そのプロジェクトは売却という形で一区切りついたのですが、振り返ればそれも1つの学びであり、糧になっています。常にポジティブに、前向きな姿勢を持って取り組んでこられたのは、自分の中での大きな支えです。
藤澤:どういった方が独立や起業に向いていると思われますか。
伊藤さん:「このスキルを伸ばしたい」と明確に思っていて、その方向に案件を寄せていける方は独立に向いていると思います。また、知的好奇心が強い方も。会社の中で与えられた範囲だけでなく、多種多様な案件を経験したい、知識の幅を広げたいと考える方にとっては、独立は良い選択肢だと思います。
藤澤:今まさに独立を悩んでいる方に向けて、メッセージをお願いします。
伊藤さん:私自身はコンサルティング会社から独立して会社をつくり、「本当に良かった」と思っています。今はフリーランスのコンサルタント市場もかなり広がっていて、自分のやりたい案件もきっと見つかると思います。ですので、恐れずに一歩踏み出してみてください。きっと新たな道が開けるはずです。