「ロジカルだけでは通用しない」元アクセンチュア×DeNA起業家【バヅクリ佐藤太一社長】が語る、コンサル思考を超えて必要だったもの

「ロジカルだけでは通用しない」元アクセンチュア×DeNA起業家【バヅクリ佐藤太一社長】が語る、コンサル思考を超えて必要だったもの

新卒でコンサルティング会社に入社し、アクセンチュアやDeNAで経験を積んだ後、みんなのウェディングのIPOを経て、現在は「遊び」から生まれる組織活性サービス「バヅクリ」を率いている佐藤太一さん。

アーティスト志望からスタートした佐藤さんのキャリアは、アクセンチュア時代の月520時間労働、メディア起業の立ち上げとコロナによる売上98%ダウンなど、まさに波瀾万丈でした。数々の修羅場を経て見出した、「本当に価値あるビジネス経験」とは?

コンサルで得たスキルの活かし方や起業で通用しなかった思考、事業会社で学ぶ意義、ベンチャー企業の選び方など、実体験に基づいたリアルなお話を伺いました。

ゲスト:佐藤太一 バヅクリ株式会社 代表取締役社長 CEO
青山学院大学卒業、早稲田大学大学院修了、株式会社チェンジに入社後、株式会社ディー・エヌ・エーアクセンチュアを経て、株式会社みんなのウェディング経営企画部長兼IPO室長としてマザーズ上場。2013PLAYLIFE株式会社(現バヅクリ株式会社)創業。

モデレーター :藤澤専之介
RPA業務を自動化するテクノロジーの会社を2018年に立ち上げ、2022年にクラウドワークスにM&Aでイグジット。その後、子会社の社長やスタートアップの支援などを行い、現在はM&A支援に従事。


バヅクリ立ち上げまでのキャリア

藤澤(モデレーター)
はじめに、佐藤さんのこれまでのご経歴を教えていただけますでしょうか。

佐藤さん
現在は、バヅクリ株式会社という組織コンサルティングや研修を行っている会社の代表をしています。

最初のキャリアは、株式会社チェンジという、現在プライム市場に上場しているコンサル会社でスタートしました。その後、DeNAアクセンチュアと渡り歩き、さらに上場企業の事業責任者を経て、バヅクリを立ち上げました。

藤澤
アクセンチュアに入社されたのはいつ頃ですか?

佐藤さん
2011年なので、今から14年ほど前になります。

藤澤
アクセンチュアに入られた経緯についても詳しく聞かせていただけますか。

佐藤さん
チェンジにいた時に、さまざまなコンサル案件を経験していく中で、アクセンチュア出身の先輩たちと出会いました。実はチェンジ自体、アクセンチュア出身者が独立して立ち上げた会社です。

そこで「30歳で起業したい」と話していたら、「それならアクセンチュアに行ってみたら?」となりまして。当時私は25歳で、毎日スーツを着ている自分の姿を鏡で見ながら「自分は社会不適合だ」と感じていて、なんとなく30歳で起業するだろうと思っていました。

藤澤
DeNAではどのような経験をされたのですか?

佐藤さん
DeNAは事業会社ですが、当時でも結構忙しいと言われていました。ただ、私にとっては大変「ぬるい」と感じて。チェンジにいたときは終電まで仕事をするのが普通だったので、22時で皆帰ってしまうのだ」と驚きました

在籍していたのは経営企画室で、社長直下の部隊。事業提携やアライアンス、M&Aなど多岐にわたる仕事をしていたのですが、正直もっと自分を追い込んで、スキルを磨きたいと感じました

コンサルは、勉強して自分の価値を高めながら、給料ももらえる仕事です。どんどん視野が広がっていくし、やれることも増えていく。それを経験して「これは起業に必要なスキルが身につく」と強く思いました。だからこそ「もう一回、自分をたたき直そう」と。

チェンジにいるときも、「アクセンチュアはこうだった」とみんなが言っていて。だったら、「本流であるアクセンチュアに行きたい」と思い、戦略の部署に行くことを決めました

アーティスト志望から一転、ビジネスの道へ

藤澤
キャリアを伺っていると、非常に大変な環境を選ばれてきていますが、それはどういう意図があったのでしょうか?

佐藤さん
もともとは音楽でアーティストを目指していたのですが、それがうまくいかなくて。その代わりに、クラブイベントやファッションショーのような音楽系のイベントを自分で企画・開催するようになって、そのイベントが、過去最高収益を叩き出したのです。

やりたかったのは音楽でしたが、「自分が実際にできることは商売なのだ」と、その時に気づきました。

それなら、「やりたいこと」に固執するのではなく、できることをとにかく増やしていこうと思い、商売を極めるにはどうしたらいいかと考えて、まずはコンサル会社に入ることにしました。

そこから、事業会社にも行き、さらに上のレイヤーのコンサル会社に進もうと考えて、アクセンチュアで就業したという流れです。

なので、きちんと戦略的にキャリアを選びました。最初から「自分らしい働き方を求める」、「やりたいことを仕事にしたい」と言っているのは、私にとっては少し正直すぎると思っていて。20代は自分らしさよりも、割り切ってできることを増やす時期だと考えていました。

アクセンチュアでの実務経験:「ひたすら紙を書く」日々

藤澤
アクセンチュア時代のご経験についても教えていただけますか?

佐藤さん
一言で言うと、ひたすら紙を書きまくっていたという感覚です。業務としては、Excelを入力したり、プレゼン資料を作ったり。少し上の兵隊のような立ち位置で、手を動かして形にしていくのが仕事でした。

藤澤
“紙を書くという表現が印象的ですね。

佐藤さん
ただ、どれだけ綺麗な資料を作れるようになっても、それが起業に直結するわけではないというのは、後から強く感じました。アクセンチュアで学べたことはたくさんありますが、同時に「これは起業にはあまり活きない」と思うような思考癖や行動パターンも多かったと感じています。

「アクセンチュア」のブランド力とその光と影

藤澤
在籍中、組織としてのプレゼンスを感じる場面も多かったのでは?

佐藤さん
たくさんありました。たとえば、飲み会や同窓会で「アクセンチュアにいます」と言うと、周囲の目がキラキラして(笑)。そういう意味では、名前の強さと言いますか、安心感みたいなものは確かにありました

しかし、それに甘えてしまうと、起業家としての厳しさに対応できなくなる。だからその安心が、時に思考のブレーキになっていた面もあったと思っています。

藤澤
では、アクセンチュアで得られたスキルの中で、「これは起業に本当に生きた」と思うものはありましたか?

佐藤さん
スピード感です。午前中に打ち合わせをして、夜にはもう資料が完成している。夜の打ち合わせの議事録が、翌朝にはすでに共有されている。これが普通なのです。

藤澤
それは相当なスピード感ですね。

佐藤さん
普通の会社の35倍のスピードで物事が進む感覚。それが染み付いたのは大きな財産です。むしろ、以前いたチェンジやDeNAよりも圧倒的に速かったと感じています。「この人たちは、秒単位で時間を大事にしているのだな」と。この時間感覚は、起業後の意思決定やプロジェクト推進において、確実にプラスになっています。

起業の障害になる「2つの思考癖」

藤澤
起業をする上で、逆に「これは足を引っ張った」と感じた思考や行動はありますか?

佐藤さん
大きく2あると思っていて。1つ目は「MECEMutually Exclusive, Collectively Exhaustive」的な発想です。

「抜け漏れなく、ダブりなく」といった考え方はコンサルでは非常に重要なのですが、スタートアップの世界では逆に向いていないと思うことが多かったです。

藤澤
具体的にどういう点で向いていないと感じられたのでしょうか?

佐藤さん
スタートアップは、5149の選択の連続です。明確な正解があるわけではないのに、「全部対応できるようなサービスを作ろう」とすると、結局何も尖っていないサービスになってしまう。それは時間もコストも人も余計に必要になるし、結局はユーザーの心に刺さらない。だからこそ、一点突破できる錐(きり)のような尖りが必要なのです。

藤澤
もう1つの「起業に不向きな思考」は何でしょうか?

佐藤さん
それがロジカルシンキングです。これもコンサルでは非常に重要なのですが、スタートアップや商売だと、そもそもロジカルではないことの方が多いのです。

「なぜそれが売れるのか?」「なぜそれが流行るのか?」という問いに、ロジカルな答えがあるとは限らないので。そもそも「今はまだ見えていない市場」を作るのがベンチャーの本質で、ロジカルに語れる段階ではない。

「なぜメルカリがあれほど流行ったのか」と、当時ロジカルに説明できた人はいたのか?という話なのです。

藤澤
なるほど。つまり、ロジカルシンキングは後付けの「説明のためのツール」でしかないと。

佐藤さん
まさにそうです。だからコンサルをやればやるほど、ロジカルなフレームでしか物事を捉えられなくなって、発想がベンチャー向きではなくなると感じました。

アクセンチュアからのキャリアチェンジ

藤澤
ちなみに、アクセンチュアにはどれくらい在籍されていたのでしょうか?

佐藤さん
1年と少しです。

藤澤
アクセンチュアから「みんなのウェディング」へ転職されたのにはどのような経緯があったのでしょうか?

佐藤さん
アクセンチュアでは体調を崩してしまって。とある月には、1ヶ月で520時間働いたこともあって、睡眠時間が31日間ずっと1時間くらいでした。

当時はギリギリ働き方改革などがなかった時代だったので。あるとき、駅のホームでふと意識を失って、電車に飛び込んでしまって。ぶつかる直前、走馬灯のように子どものころに秘密基地を作って遊んでいた記憶がよみがえってきたのです。

藤澤
本当にギリギリの経験だったのですね。

佐藤さん
幸い、あと5センチのところで首の皮一枚つながったのですが、そのときに、「これまでいろいろなことをしてきたけれど、無邪気に遊んでいたあの記憶には敵わなかった」と思ったのです。

大学時代に起業もして、「日本ガーディアン・エンジェルス」という団体で赤いベレー帽を被って渋谷のパトロール活動もしていて。それから、日本人では3人目となるアメリカの大学院で国連のスパイ養成所にも所属していた経験もありました。

さらに、「m-flo」という音楽ユニットの事務所でもスタッフとして活動していて、自分自身もアーティストを目指していた時期もあったのですが。

藤澤
そういった経歴の中で、“秘密基地”の記憶が一番強烈だったのですね。

佐藤さん
そうなのです。だからこそ、「大人でも無邪気に遊べる世界を作ろう」と決意しました。それが、「プレイライフ」という遊びのクックパッドのような、実体験のモデルコースを投稿できるメディアを立ち上げる原点になりました。

藤澤
そこから「みんなのウェディング」にはどう関わっていったのですか?

佐藤さん
アクセンチュアで倒れて、12ヶ月ほど傷病休暇を取っていた時期に、たまたま当時DeNAから独立して上場を目指していたみんなのウェディングに遊びに行ったら、「手伝ってほしい」と言われて。

藤澤
復職後も関係は続いたのですか?

佐藤さん
はい。アクセンチュアに復職した後も、業務終了後にみんなのウェディングに立ち寄って手伝っていて。そこでは社員が20人ほどで、社長のすぐ横に座って、意思決定から資料作成まで一緒にやっていました。

藤澤
まさに、スタートアップの最前線ですね。

佐藤さん
「経営はこうやって成り立っていくのだ」というのを、間近で学ぶ貴重な経験でした。

一方で、「社長はこう判断したけれど、自分だったら違う選択をする」と思うこともありました。だからこそ、「自分が本当にやりたい形で、起業してみよう」と思えたのです。

アクセンチュア退職後、みんなのウェディングへ

藤澤
アクセンチュアを辞めた後の第一歩は、やはり「みんなのウェディング」だったのでしょうか?

佐藤さん
そうです。退職後は、みんなのウェディングでIPO室長兼 経営企画部長として働いていました。週4日くらいの稼働で、経営側にガッツリと関わっていました。

当時はまだお金がなかったので、残りの時間は業務委託で6社くらいお手伝いしていて、並行して、自分の会社の立ち上げもやっていました。

藤澤
想像を絶する忙しさですね……

佐藤さん
本当に走りっぱなしでした。しかし、みんなのウェディングの経営を一緒にやっていた経験は、私にとってこの3年間の中で本当に宝物です。一緒に働いた人たちとのつながりも含めて。実際に、弊社の役員になってくれている人もいます。

藤澤
そういった信頼関係が、今のバヅクリの土台を支えているのですね。

佐藤さん
はい。アクセンチュアで10年くらい働き続ける経験に勝るとも劣らない時間だったと思っています。

バヅクリ一本に絞る決断

藤澤
そこから、現在の「バヅクリ」一本に絞っていかれた流れについても教えてください。

佐藤さん
当時は「3年半で上場させる」というプレッシャーの中で、みんなのウェディングの経営企画部長を務めていました。一方で、自分が立ち上げた「プレイライフ」というメディア事業の社長も並行してやっていたのです。

藤澤
ダブルで責任ある立場だったわけですね。

佐藤さん
はい。ただ、証券会社から「どちらかにして」と言われてしまって。しかし私にとって、みんなのウェディングは経験として関わっていたので。夢を実現するのは自分の会社だと、そこで腹をくくってプレイライフを選びました。

藤澤
上場に向けた最後の局面では、どのような形で関わっていたのでしょうか?

佐藤さん
上場の直前には工数を抑えて後任に引き継ぎつつ、実際にはCFOのような立ち回りで、ずっとファイナンスや社内調整をやっていました。

藤澤
プレイライフではどのような展開をされていたのですか?

佐藤さん
遊びのクックパッド」のような体験共有型メディアで、45千万円の資金調達をしました。当時はちょうど地方創生が盛り上がっていた時期で、地域おこし協力隊やブロガー、地元のライターさんを巻き込んで、日本全国の遊び方を発信していました。月間400万人の利用者、PVは約1,000。日本でベスト15に入る規模まで成長しました。

ただ、コロナが流行して、売上が一気に98%ダウンしました。当時はJRANAUSJなど大手企業との広告企画で収益を上げていたのですが、それがすべてストップに。

藤澤
それはかなり大きな痛手だったのでは…。

佐藤さん
逆に楽しかったですね(笑)。ここまで来ると楽しいなと思って。孫悟空のように「オラ、ワクワクしてきたぞ」という気持ちが湧いてきました。

藤澤
そこから今の「バヅクリ」へとピボットされたわけですね?

佐藤さん
はい。方向転換して、一般向けの遊びから、企業向けの遊びに転換しました。いわゆるチームビルディングやエンゲージメント向上、離職防止を目的とした「研修・対話・制度設計」の3軸で事業を組み立てていきました。

藤澤
現在は、どのような企業と取り組まれているのですか?

佐藤さん
現在はみずほ銀行様三井住友海上様など、上場企業900社以上の組織開発や人材定着支援を行っています。バヅクリはただのレクリエーションではなく、企業の組織課題を解決するプロダクトとして位置づけています。

起業13年、波乱と挑戦の歩み

藤澤
ここまでお話を伺って、本当に多くの変化と挑戦があったと感じます。振り返ってみて、どう感じていらっしゃいますか?

佐藤さん
起業して13になりますが、そのうちメディアが8年、バヅクリが5。本当に、波瀾万丈でした。しかし、そのすべてが今に生きていると、心から思っています。

藤澤
これまでさまざまなキャリアを歩んでこられた佐藤さんですが、ご自身のキャリアの中で、「今、最も生きている」と実感するスキルや経験は何でしょうか?

佐藤さん
一番生きていることは2つありまして、「信用」と「スピード感」です。

やはり「アクセンチュア出身」と書いてあるだけで、初期の信用度が全く違います。最近はアクセンチュア出身の方も増えてきてコモディティ化しつつありますが、それでも強みとしては残っています。

藤澤
どのような場面でそれを実感されますか?

佐藤さん
特に資金調達や事業提携の交渉、いわゆる偉い方とお話しする場面です。営業レベルではアドバンテージがあるくらいですが、上のレイヤーになるほど効いてくると感じています

たとえば資料の片隅に「アクセンチュア出身」とだけ書いておくと、VCやエンジェル、CVCの方から「なるほど、だからこういうビジネスモデルができるのですね」と言われることが多いです。こちらから説明しなくても、一言で信頼の文脈を作ってくれると言いますか。

藤澤
もう1つの「スピード感」についてもお聞かせください。

佐藤さん
これは本当に大事にしている価値観です。私はよく「社長は風だ」と言っていて。社長がどれだけ強風でいられるかによって、会社全体のスピード感が決まると思っています。

藤澤
なるほど。佐藤さんご自身が風速そのもの、というわけですね。

佐藤さん
まさにそうです。「なるはやでお願いします」と言われた時に、会社ごとにそのなるはやの解釈が違いますが、私にとっては、「数時間後にはできている」くらいがなるはやです。

藤澤
それが企業文化にも直結するわけですね。

佐藤さん
ええ。しかも、早く作って早く修正することが、一番精度として高くなります。修正の回数が多いほど、完成度は上がるし、チャンスも取りやすくなる。だからこそ、スピード感がある環境を私自身が作っているつもりです。

藤澤
ここまでキャリアの歩みや起業についてお聞きしてきましたが、最後に視点を変えてお伺いします。もし今の時代に、もう一度ファーストキャリアを選び直せるとしたら、佐藤さんはどのような選択をされますか?

佐藤さん
私なら「アクセンチュア」に入社したいと思います。そして、アクセンチュアの中でも一番ブラックな部署に行きたいです。 

藤澤
ブラックな部署……それはかなりハードな選択では?

佐藤さん
本気でそう思っています。私の持論ですが、狂った人が世界を動かすと思っていて。基本的に、世の中を本当に動かしているものって、常識では理解できないほどの狂気だったりするので。

藤澤
確かに、熱量が突き抜けている人やプロジェクトほど、結果も大きいですよね。

佐藤さん
そうなのです。時間とか場所とかお金とか、そういうものがどうでもよくなるくらい打ち込めることがあるかどうかが、非常に重要だと感じています。

藤澤
“打ち込めるというのが、キーワードなのですね。

佐藤さん
たとえば、勉強にすごく没頭している子どもがいたら、親としてうれしいと思いませんか? あるいは、趣味に完全にのめり込んで、それをプロフェッショナルとして極めていく姿なども。

藤澤
それを見て「辞めなさい」とは言わないですよね。

佐藤さん
そう。なのに、なぜ大人になると「打ち込みすぎるのは良くない」と言われるのか?私はそこにずっと違和感があって。本気で没頭できることがあるなら、それを止める理由などどこにもないと思っています。

藤澤
そう考えると、アクセンチュアのような環境は、まさに理想的なスタート地点だったと?

佐藤さん
ええ。今はかなり規制も整っているとは思いますが、当時のアクセンチュアは、「再現なく仕事ができる場所」でした。とにかくやりたいだけ仕事があって、自分を試せる場所でもあったので

もし今またファーストキャリアを選び直すなら、やはりそういう、本気の現場に飛び込んでいきたいと思っています。

「誘われて始まる起業」も大いにアリ

藤澤
起業に必要なスキルと言うと、やはり明確な基準があるのでしょうか?

佐藤さん
まず前提として、起業の形は人それぞれで良いと思っています。たとえば、友達や先輩に「起業しないか」と誘われて、たまたまそのチャンスに乗って始まるケースもある。それはそれで、全く良いと思います。

藤澤
では、佐藤さんご自身が考える「一人前の起業準備が整った状態」とは、どのようなものですか?

佐藤さん
私の考えでは、上司の思考が読めるようになったら一人前かなと。つまり、1つの案件を自分でマネジメントして、成果物も自分で作って、お客様と期待値のコントロールまで行える状態です。

ただこれは時間もかかるし、クライアントやプロジェクトの規模にもよります。たとえば100200人規模のプロジェクトでは埋もれてしまいやすい

藤澤
なるほど。上司の思考を読むとは具体的にどういうことでしょうか?

佐藤さん
「直上長が次に何をやりたいか」「今、何がボトルネックになっているか」など、先回りして気づける力です。これを、私は見聞色の覇気と呼んでいます。

ちなみにこれは、仮説思考に近いものだと思っています。仮説を立てて行動して、フィードバックを得て、修正する。その繰り返しができれば、それなりに一人前と言えるのではないでしょうか。

ホワイトボードに“業務モデル”が描けたら独立ライン

藤澤
実務レベルで「独立できる」と思えるラインはどちらでしょうか?

佐藤さん
私自身はIT系やハイテク系のコンサル案件が多かったのですが、たとえば物流や食品メーカーなど、自分の知らない業界でも「業務フロー」や「ビジネスモデル」、「どこに付加価値があるか」を、ホワイトボードにサッと描けるレベルになったら、独立しても大丈夫だと思います。

藤澤
起業後は、すべて自分でやらなければならないですよね。

佐藤さん
そうなのです。だから大切なのは、「思考の瞬発力」と「知らないことを理解するスピード」です。

ビジネスには「企画開発マーケ営業提供」という一連の流れがありますが、それぞれの領域で知らないことにどう向き合えるかが非常に大切。特にベンチャーや起業初期は、わからないことばかりなので。その中で「リサーチで何を読めばいいのか」「本質は何か」を見極めて、短時間で理解し、他人に伝える能力があると、独立後もスムーズに動けると思います。

藤澤
そもそもコンサルから起業を考えるときに、事業会社を挟むことはどう思われますか?

佐藤さん
絶対に行った方がいいと思います。理由はシンプルで、業界のことをよく知れるからです。

たとえば「AIで起業したい」と思ったら、理想とする会社に近い業種の事業会社に入っておくべきです。私もみんなのウェディングに在籍していたときに、「ユーザーをどうやって増やすか」「営業の仕組みをどうするか」「どうビジネスモデルを作るか」といったことをかなり真似しました。

藤澤
会社の規模は、どう考えれば良いのでしょう?

佐藤さん
規模はできるだけ小さい方がいいです。理想は30人以下、特に20人前後がベスト。なぜかと言うと、20人くらいだと「社長は今こんなこと考えているな」とか「今日は社長イライラしているな」といった空気感までわかるので。経営判断の裏側が“体感”できるのは、この人数規模ならではです。

藤澤
手を挙げれば何でも任されるような環境、ということですね。

佐藤さん
そうです。たとえば「今からマーケティング部門を立ち上げます、誰かやりたい人?」と聞かれて、手を挙げたら「では、全部よろしく」となるのがこの規模感です。

ただ、小さすぎると偏りがある会社もあるので、バランスも大事です。社長や役員に人格的な問題があるなど、会社が大きくならない理由が「人」の場合もあります。

藤澤
会社選びの観点で、他に気をつけることはありますか?

佐藤さん
「人を連れて行かないが、やり方はすべて真似する」というスタンスがいいと思います。私自身、「こういう想いで独立したいと思っています。いろいろ勉強させてください」と正直に言って、立つ鳥跡を濁さない辞め方を大事にしてきました。

実際、バヅクリではアクセンチュアがクライアントになってくださっていて、私をリファラルで入社させてくださった役員の方が、タレントマネジメントをバヅクリに依頼してくださっています。

藤澤
起業を前提に、どんな業界・企業を選べばいいと思いますか?

佐藤さん
まずは「伸びている業界」が大前提です。伸びていない業界に行くのはボランティアだと思ってください。その上で、自分が興味を持てるかどうかだと思います。

たとえばAIだとしたら、 AIの会社は多いので、きちんと見極める必要があります。そこでおすすめなのが、Wantedlyや複業クラウドなどを活用して、週1日くらいで実際に働いてみることです。 

藤澤
気になる会社に少し入ってみる、というわけですね。

佐藤さん
はい。“見る”のと“中に入ってみる”のとでは、実態が全く違うので。意外に、たとえばトイレが綺麗かどうかとか。私は「水回りに魂が宿る」と思っていて、そういう部分に経営者の価値観が出ると思っています。

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