大手から飛び出し“営業”で勝負! 板倉小陽氏が語るキャリアの選択・起業の苦悩と「五方良し」の経営哲学

大手から飛び出し“営業”で勝負! 板倉小陽氏が語るキャリアの選択・起業の苦悩と「五方良し」の経営哲学

大手損害保険会社からコンサルティングファームを経て起業へ――Empire State株式会社代表・板倉小陽さんは、営業の最前線で培った経験と「挑戦を恐れない姿勢」を武器に、法人営業支援の事業を展開しています。

本インタビューでは、東京海上日動・デロイトで得た学びから、起業に踏み切るまでの葛藤、そして「五方良し」の理念に基づいた経営スタンスまで、板倉さんのキャリアと思いを余すことなく語っていただきました。

営業を「最後はヒトが勝つ世界」と捉え、日本の企業をグローバルに戦える存在へと導く。その挑戦の裏側に迫ります。

ゲスト:板倉小陽(Empire State株式会社 代表取締役)
新卒で東京海上日動火災保険株式会社に入社。法人営業などに従事。後にデロイトトーマツコンサルティング合同会社に転職。主に上場企業向けの業務改善プロジェクトやシステム統合PMO業務などを担当。2023年9月、Empire State株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。

モデレーター :藤澤専之介
RPA業務を自動化するテクノロジーの会社を2018年に立ち上げ、2022年にクラウドワークスにM&Aでイグジット。その後、子会社の社長やスタートアップの支援などを行い、現在はM&A支援に従事。

東京海上からデロイト、そして起業へ ― 営業の基盤を生かしたキャリア転機

藤澤
今回はEmpire State株式会社の板倉様にお話を伺います。まずは会社名について伺ってもよろしいですか?

板倉さん
Empire State」という社名は、ニューヨークの象徴でもあるEmpire State Buildingから取りました。

藤澤
ありがとうございます。それでは、ご経歴についても伺えますでしょうか。

板倉さん
私のキャリアは東京海上日動火災保険株式会社で営業を経験したところから始まりました。その後、デロイト トーマツコンサルティングに転職し、さらに起業して現在に至ります。

藤澤
現在の事業内容についても教えていただけますか?

板倉さん
弊社は法人営業領域に特化した事業を展開しています。具体的には、営業代行や営業コンサルティングを提供し、企業の成長を支援することに取り組んでいます。

藤澤
ファーストキャリアとして東京海上日動を選ばれた理由を教えてください。

板倉さん
大きく2つあります。1つは「20代で年収1,000万円を狙える会社」だったこと。もう1つは、最初に参加したインターンが東京海上日動で、そこで出会った社員の人柄に惹かれたことです。「この人たちと一緒に働きたい」と思い、キャリアを築く場として選びました。

藤澤
東京海上日動での経験は、今のキャリア観にどのような影響を与えましたか?

板倉さん
営業のすべてを学べたことが非常に大きいです。現在私が提供しているサービスも営業に特化していますが、その基盤は東京海上日動で培ったものです。大企業でありながら、新規開拓にも全社員が真剣に取り組んでいましたし、営業や社会人としての作法を学べる環境でもありました。新卒に戻れるとしても、もう一度東京海上日動を選びたいと思うほどです。

藤澤
そこから転職を考えられたきっかけは何だったのでしょうか?

板倉さん
理由はいくつかありますが、大きいのは「保険の売り方を完全に理解してしまった」という点です。最終的には紹介だけで新規を稼げるようになっていました。ただ一方で、中小企業の経営者に損害保険や生命保険を届ける中で、「自分は保険しか売れない」という歯痒さも強く感じました。もっと抜本的に経営課題を解決したい。その思いが募り、コンサルティングファームへの転職を決意しました。

デロイトで学んだ“プロフェッショナルの流儀” ― 人柄に惹かれ選んだ環境と得た成長

藤澤
数あるコンサルティングファームの中から、デロイト トーマツ コンサルティングを選ばれた理由を教えてください。

板倉さん
1つ目は単純に「名前が格好良い」と思ったからです(笑)。もう1つは、BIG4の複数のファームで働くマネジャーやシニアコンサルタントの方々にOB訪問をさせていただいた際に、デロイトの方々の人柄が一番良かったことです。加えて、未経験者でも成長できるように育成やナレッジ共有の仕組みが整っていると皆さんが口を揃えていたので、経験ゼロの自分でもスキルが身につくと確信し、選びました。

藤澤
実際にデロイトでは、どのようなプロジェクトを担当されたのですか?

板倉さん
主にシステム関連のプロジェクトに携わりました。具体的にはSAPを中心としたグローバルERPシステムの案件に従事しました。

藤澤
入社後に大変だったことはありますか?

板倉さん
結論から言えば、すべてが大変でしたが、特に座学で苦労しました。システム関連の知識を1から座学で学ぶ必要がありましたので、とても大変でした。もう1つは営業の仕事との考え方の違いです。営業の世界では「数字を取ってきたら偉い」という文化がありますが、システムの世界では「動かなければ意味がない」。この価値観のギャップに直面したのは、大きな挑戦でした。

藤澤
デロイトで印象に残っているプロジェクトや経験について教えていただけますか?

板倉さん
所属していたコンサルタントやマネジャー、パートナーの方々は、ビジネスパーソンとしてトップクラスだと肌で感じました。具体的には、私が担当したのは東証プライムに上場し、日経銘柄にも名を連ねる大手企業様のプロジェクトです。その役員に対して、正々堂々と論理立てて説明をする姿や、パワーポイント資料の「1cmのズレすら許さない」という徹底ぶりを目の当たりにし、プロフェッショナルとしての仕事の在り方を学ぶことができました。

論理と営業の狭間で見えたキャリアの方向性 ― デロイト経験から得た学びと“向き不向き”の気づき

藤澤
コンサルの仕事を通じて、どのようなスキルや考え方が鍛えられましたか?

板倉さん
良いか悪いかは別として、「その意見は事実なのか、それとも意見なのか?」と切り分けて考える習慣が身につきました。これは仕事では非常に役立つのですが、プライベートでは少々困ることもありまして…。たとえば合コンでは「それは事実?意見?」と突っ込んでしまい、全く盛り上がらなくなってしまうこともありました(笑)。ですが、この姿勢は論理的に物事を整理する上で非常に大きな糧になっています。

藤澤
コンサル入社時には、どのようなキャリアプランを描いていたのでしょうか?

板倉さん
幼少期から「いつか起業したい」という思いがあり、入社時から「自分で会社をつくる」という目標を持っていました。デロイトでは経験を積むと同時に、将来に向けたパートナーや人脈を築きたいと考えていましたが、結果的には13カ月で退職しました。理由はシステムコンサルが自分には合わないと感じたからです。そして何より、「起業したい」という気持ちが強く、その思いに素直に従ったことが大きな意思決定につながりました。

藤澤
システムのコンサルがご自身に向いていないと感じたのは、どのような理由からでしょうか?

板倉さん
私は営業で数字を残せていた自負があり、自分の価値もそこにあると考えていました。ただ、デロイトクラスのプロフェッショナルな環境では、仕事への細やかさや資料作成の精度、そしてシステムに関する知見をグローバル水準でトップクラスまで高める必要があります。「平均点に近づくことはできても、突き抜けるには510年ほどかかるだろう」と感じて。そう考えると、自分はシステムコンサルに向いていないと結論づけました。

藤澤
得意とされていた営業スキルを生かせる場面はあったのでしょうか?

板倉さん
私自身は1年ほどしか在籍していないため大きなことは言えませんが、マネジャーやシニアマネジャークラスになると、クライアントに対する営業活動は必須になります。ここではまさに「コンサルティング営業」が求められます。そこは営業としての真髄が問われる場面であり、もしそのポジションに至っていれば、自分の得意分野を最大限に発揮できたのではないかと思います。

安全な道を捨て、挑戦へ――大手からの独立で得た学びとリスクを取る意味

藤澤
Empire State株式会社を立ち上げられた背景について教えてください。

板倉さん
一番の理由は「リスクを取って挑戦をする」という思いです。これは現在の会社の経営理念であり、私自身の行動指針でもありますし、役員やメンバー全員に伝えていることでもあります。

私は中高一貫の私立、大学も私立を経て、新卒で大手企業、転職でも大手企業に入るという、いわゆる人生のキャリアにおける勝ちパターンを歩んできました。だからこそ、その「安全なチケットを破り捨てること」に面白さを感じたのです。自分がやりたいことに挑戦し、リスクを取ることは、自分たちがまず実践しなければならないと思いました。大手で働いてきた自分がリスクを取ることで、他の人たちのチャレンジをリードしていきたいという思いがありました。

もっとも、起業に踏み切る際には不安も大きく、2週間ほど眠れない日々を過ごしました。当時はChatGPTもなく、パソコンで「起業の仕方」と検索しても明確な答えが得られず、友人に聞いて回るような状況でした。「いよいよサラリーを捨てるのか」と実感が湧いた時の感覚は、今でも忘れられません。

藤澤
起業初期に直面した困難や大変だったことはどのようなものでしたか?

板倉さん
0から100まで、すべてを自分でやらなければならないことでした。営業活動はもちろん、請求書の発行、デリバリ、採用、さらには「自分の会社をどうしていくか」といった方向性の決定まで、これまで会社が担ってくれていたことを代表である自分がすべて引き受ける必要がありました。その現実を体感した時、起業の大変さを強く実感しました。

藤澤
起業後に、コンサル時代の経験が役立ったと感じたエピソードはありますか?

板倉さん
デロイトを卒業して経営されている先輩がたくさんいらっしゃるのですが、「元デロイトです」と言うだけで、先輩方がとても可愛がってくださるのです。その方たちが強力なプレイヤーを紹介してくださり、大きな助けになりました。

また、ビジネスに対する考え方や、デロイト時代に培ったアウトプットの質の高さは、起業当時からお客様に評価いただきました。「デロイトに頼むなら板倉くんにお願いしたい。しかもこの価格でやってくれるなら良いね」と言っていただき、仕事をたくさん受注できたのは非常に良かったと思います。

藤澤
デロイト時代のプロジェクトの中で、今の事業と結びついている経験はありますか?

板倉さん
直接的ではありませんが、資料作成や細部へのこだわりは非常に役立っています。たとえば、資料の表記ゆれやフォントのサイズが8.08.5で揃っていない、フォントの一部が少し右にずれているといった細かい部分です。コンサル出身でない方だと「どうでもいい」と思うかもしれませんが、実際には意思決定権者ほど細部まで見ています。私自身も、コンペの場でクライアントからその点を直接フィードバックされたことがあります。

また、デロイトのクライアントはすべて大手企業でしたので、「大手の決裁者がどのように考えているか」を肌で感じられたのは非常に大きな経験でした。これは今の事業にも直結しており、大変面白い学びだったと思います。

営業の本質は“人”――五方良しを掲げ、社会に影響を与える会社へ

藤澤
Empire State株式会社で取り組んでいる事業について教えていただけますか?

板倉さん
現在は法人の営業領域に特化して、営業代行や、営業組織の構築、売り方の設計といったコンサルティングを提供しています。

多くの企業が「営業に困っている」とおっしゃいますが、その困っているの中身は一様ではありません。たとえば「営業人材が足りていないのか」「そもそも商品やサービス自体が売れないのか」「営業の経験がないから困っているのか」といった具合に因数分解できるのです。私たちは、この分解された課題ごとに適切なソリューションを提供することを大切にしています。これが事業内容を端的に表す答えだと思います。

藤澤
営業コンサルティングをやることは、最初から決めていたのでしょうか?

板倉さん
実は起業を考えていた当初、「アイスクリーム屋をやろうかな」とか「中古車販売をやろうかな」といったアイデアもありました。ただ、当時は資金が限られており、赤字を掘ってしまうような事業は避けたかったのです。そこで、自分の持っている知識を生かし、資金をあまりかけずにできる知識労働に目を向けました。その結果、自然と「営業だ」と思い至り、営業とコンサルティングを掛け合わせた営業コンサルを始めることに決めました。

藤澤
事業をする上で、大切にしている価値観やスタンスについて教えてください。

板倉さん
私のスタンスの根本は「挑戦」です。そして特に大切にしているのが「五方良し」という考え方です。これは「お客様」「社会」「自分自身」「メンバー」「未来」の5つを指しています。この五方すべてが良くならないのであれば、その事業はやらない方が良いと考えています。

世の中には、誰かがアンハッピーになるビジネスモデルも存在します。しかし、そうしたものは中長期的に見ると必ず自分に跳ね返ってくる。だからこそ、五方すべてを大切にするスタンスを持ち続けたいと思っています。

藤澤
では、今後の会社としてのチャレンジについてもお聞かせください。

板倉さん
私が目指しているのは「社会に一定の影響を与える会社」になることです。売上やお客様の数、そして弊社を信じてついてきてくれるメンバーの数――こうしたものが積み重なって初めて「影響力」と呼べると思います。

さらに、日本はご存じの通りGDPの成長が停滞しています。その中で、私たちが営業という側面から日本を「グローバルで戦える国」にしていくことが使命だと考えています。この思いは絶対にぶらさずに事業を進めていきたいですね。

藤澤
板倉さんは営業領域に特化した事業を展開されていますが、その理由について教えていただけますか?

板倉さん
理由はシンプルで、「最後にヒトが勝つ」と信じているからです。そして、その思いは以前にも増して強くなっています。

近年では転職エージェントをはじめ、さまざまな「ヒトが絡むビジネスモデル」が広がっています。どれだけテクノロジーが進化しても、最終的に人が介在するからこそ選ばれる場面はなくならないと考えています。

藤澤
具体的にはどういったシーンをイメージされているのでしょうか?

板倉さん
たとえば高級車や家といった大きな買い物は、多くの人にとって一生に12回あるかどうかの経験です。その時、Webサイトだけで決済を済ませる人はほとんどいません。多くの場合、営業担当者と向き合い「この人からフェラーリを買いたい」「この人から一軒家を買いたい」と思うのではないでしょうか。私はそこにこそ営業の本質があると思っています。

藤澤
なるほど、営業の本質を「人で選ばれること」に置かれているのですね。

板倉さん
そうです。そして日本は人口が減少している国です。だからこそ、人と人との関わりが持つ価値はより高まっていくと信じています。

先ほども「五方良し」という考えをお話ししましたが、私は「価値があることをやりたい」という思いを大事にしています。その舞台が営業であり、営業というステージで戦っていくことに大きな意義を感じています。

収入は下がって上がる――起業初期の踏ん張りと“営業伴走者”としての使命

藤澤
コンサル時代から起業に至るまで、収入の変化はどのようなものだったのでしょうか?

板倉さん
端的に言えば、「下がって上がった」という表現が一番正しいと思います。最初に勤めていた東京海上日動は、正直異常な年収水準でした。私自身も評価をいただいていたこともあり、3年目には年収720万円に到達していました。

その後デロイトに転職したのですが、年収は約600万円に下がりました。これは当時公開されていた数字でもあります。さらに起業した直後は役員報酬という形になるので、「まだ実績を出していないのに600万円もらうのは価値がない」と考え、自ら報酬を下げました。そこから業績が安定してきたことで、徐々に役員報酬も引き上げていったという流れです。正直、最初の2年を踏ん張れば、なんとかなると実感しています。

藤澤
最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

板倉さん
私が経営するEmpire State株式会社は、法人の営業領域に特化したサービスを提供しています。多くの企業が口を揃えて「営業が足りない」「営業に困っている」とおっしゃいますが、その困っているという感覚を分解すると、実はいろいろな要因が隠れているのです。

たとえば「営業する人材が足りない」「売るべき商材自体に課題がある」「営業経験がなくやり方が分からない」など、それぞれ状況は異なります。私たちはその本質的な課題を明らかにし、解決策をともに考える伴走者でありたいと思っています。

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