副業が事業づくりの解像度を上げた理由──元コンサルのHさんが語る、戦略から実装へ踏み出したキャリアの軌跡

「戦略は描けるが、事業をつくっている実感が持てない」──。
現役コンサルタントの多くが、一度はそんな違和感を抱いたことがあるのではないでしょうか。
俯瞰的な視点で課題を整理し、正解確率の高い打ち手を提示する一方で、その戦略がどのように実装され、成果として結実していくのかを当事者として体感する機会は、決して多くありません。
本記事で紹介するHさんも、コンサルタント時代に同じ課題意識を抱えていた1人です。
「俯瞰して戦略を描く側」から、「現場で実装し、成果を出す側」へ──。
その視点転換の過程でHさんが選んだ1つの手段が、副業でした。

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コンサルから事業会社へ──戦略を描く側から、事業を動かす側へ
――これまでのご経歴と現在のお仕事について教えてください。
大学を卒業後、2015年に大手総合系コンサルティングファームに入社し、約10年弱、コンサルタントとして勤務しました。基本的にはコンサルティング業務が中心ですが、採用活動にも一部関わっておりました。
その後、グローバルメガファームのストラテジー部門に転職。製造業領域を中心とする大きなプロダクトがあり、その中にある流通・小売・消費財の担当セクターにおりました。
現在は、クラウドと生成AIを軸に事業展開している事業会社に所属。クラウドサービスを世の中に広める活動をする中で、日本一、世界一のアワードを受賞し、現在はグロース市場に上場しています。
事業企画の領域長として新規事業の構想から立ち上げ、推進までを担い、新しい事業をどうつくり、どう伸ばすかを考え、実際に形にしていく。これまでコンサルとして、第三者の立場から「あるべき姿」を描く仕事をしてきましたが、今は自分自身が当事者として事業を動かしています。
社会人5年目、「ご縁」から始まった副業という選択
――副業を始められたのは、いつ頃だったのでしょうか。社会人5年目の頃です。きっかけはシンプルに「ご縁」。高校時代の友人が会社を経営していて、「少し手伝ってほしい」と声をかけていただいたことがきっかけです。
当時はマネージャーに近い立場で、稼働をある程度コントロールできていたので、本業に支障が出ない範囲でなら、という条件で副業を始めました。
副業で担った役割と、現場に根づいた価値発揮
――副業では、具体的にどのような役割を担っていたのでしょうか。
友人が経営する100名規模の会社で、アドバイザリー的な立ち位置でした。月の稼働は5〜20%程度で、事前に「このくらいの時間なら使える」と共有し、その範囲であれば仕事の内容は特に限定しないスタイルでサポートを行っていました。
――具体的にはどのようなことをやられていたのでしょうか。
採用支援、評価制度の設計、事業計画の壁打ち、営業提案の型作り、新規事業のレビューなど、幅広く関わっていました。
――ご友人の会社で副業をしている中で、特に印象に残っている出来事はありますか?
長く関わる中で、一番印象に残っていることは「いつでも来ていいから」と言われたことです。友人ではありますが、一緒に仕事をした上でその言葉をもらえたことは、プロとして一定の評価をしていただけた証だと感じました。
そして、会社全体の評価制度の作成と、営業活動における提案書の型作りの2つを実施。また、事業計画の策定を一緒に進めるような比較的大きなタスクもあれば、提案資料作成のサポート、新規事業立ち上げ時の知見提供やレビューなども担当しました。
私が考えてつくった仕組みが、組織の血肉になりナレッジとして残っていくのは、コンサル出身者としてもやりがいを感じる部分でした。
――スムーズに価値を出せた背景に何があったと感じられていますか?
在籍していた大手総合系コンサルティングファームはITプロジェクトマネジメントの印象が強いですが、私自身はその中でも少々異なるキャリアを歩んできました。IT開発案件には携わらず、一貫してストラテジー寄りの立場で、業務改革と戦略の中間にあたるテーマを中心に担当しました。
プロジェクトでは、リサーチや示唆整理を通じて経営・事業の方向性を描くだけでなく、新規事業の立ち上げ支援では次第に実務まで踏み込み、クライアントとともに事業をつくり、営業現場に同行することもありました。
また、当時の上司が立ち上げた“社内子会社”的なチームに所属し、売上創出から評価制度設計、採用までを自分たちで担当。大企業にいながら、実態としてはベンチャーに近い環境での経験を積めたことが、組織づくりや制度設計にも違和感なく向き合えた背景だと感じています。
――そうなのですね。
加えて、友人である社長が非常に合理的なタイプだったことも大きいです。できそうにないことは依頼してきませんし、私も自身の経歴を正直に伝えた上で「ここまではできるが、ここから先は難しい」ときちんと線引きをしていました。
その上で依頼内容を調整してくださっていたので、仕事のミスマッチが起きづらく、お互いにコントロールしやすい関係性を築けていたのだと思います。
転職理由の説得力を高めた「キャリア補強材」としての副業
――副業を経験されたことで、本業やキャリアにプラスになった点はありましたか?副業が劇的なメリットになったというわけではないですが、転職活動の際に「キャリアの補強材」として役に立ちました。
転職にあたっては、自身のキャリアを以下のように具体的に説明しました。
これまで、創業期に近いファームから、完成度の高いグローバルメガファームまで、両極の組織フェーズを経験してきた一方で、30〜1,000人規模の“ミドル〜メガベンチャーへ向かう途中”のフェーズは未経験でした。
現在就業している事業会社は約400名規模で、大企業でもアーリーベンチャーでもない、まさにその中間に位置します。新たな挑戦ではあるものの、これまでの幅広い組織経験を生かせるフェーズだと考えました。
加えて、副業を通じて100名規模の会社の課題感には一定の理解があり、役割や権限の線引きにとらわれずに仕事を拾う姿勢や、採用・育成といった実務にも向き合ってまいりました。そうした経験は、事業会社でも研修や育成、採用面接官として価値を発揮できる点としてアピールでき、転職理由のロジックを補強する材料になったと感じています。
事業家としての成長を軸に描く、これからのキャリアと副業観
――事業会社での現在のチャレンジも含めて、この先どのような方向性を思い描いていらっしゃいますか。
現在は、事業戦略を考え、その戦略をもとに実際に事業をつくり、数字をつくるという総合格闘技的な仕事に取り組んでいます。そこでは戦略だけでなく、営業・採用・組織づくり・技術の理解など、あらゆる要素が求められます。まずは今の事業会社での経験を通じて、その総合格闘技としての力量をしっかり鍛えることが優先だと考えています。
そして、領域長という管理職ポジションではありますが、まだ経営層ではありません。まずは経営層の一員としての立場まできちんと上り詰め、もう一段、二段上の視座で事業や会社全体を見られるようになることが、直近の目標です。いわば「事業家としての成長」を短期的なテーマに置いています。
――中期的な目標はいかがでしょうか。
中期的には、そうして培った経験やスキル、人脈が、私にとって大きな財産になると期待しています。戦略を外から考えられるだけでなく、実際に事業をつくり、推進し、結果を出してきたという実績が積み上がれば、その先に取れる選択肢も広がっていく。
たとえば、複数の会社に社外取締役のような形で関わる道もあるでしょうし、いくつかの企業で役員や事業責任者として「複数のわらじ」を履く働き方もあり得ます。自分自身で会社を立ち上げ、事業づくりや組織づくりをゼロから行い、仲間と一緒に社会実装・社会貢献を進めていくという道もあるかもしれません。
正直なところ、今はどのパターンを選ぶかは決めきれていません。3〜5年ほどかけてこの企業でのチャレンジをやり切った上で、その時点で自分の中で一番「ビットが立つ」選択肢を選びたいと考えています。40歳前後からのキャリアは、その時にあらためて決めるつもりです。
――今後のキャリアを考える上で、副業をどのように活用していきたいとお考えでしょうか。
基本的なスタンスとしては、私のリソースが許す限り、貢献できる場があるなら積極的に関わりたいと思っています。
時間とエネルギーに余裕があるのであれば、新しい経験は積みたいですし、私の知見やスキルが誰かの役に立つのであれば、喜んで支援したい。そういった意味で、副業という形でそれが実現するのであれば、姿勢としてはウェルカムです。
ただ、今のフェーズについて言うと、副業を「足りないケイパビリティを補完するための場」として捉えてはいません。コンサルタント時代は、私に不足しているケイパビリティを副業で補う、という発想がありましたが、今は少々変わってきています。
――副業という観点で「こういった領域なら貢献してみたい」「関心がある」という分野はありますか?
あまり多くはないのですが、私の人生で大切にしたいキーワードが2つあります。
1つめは新規事業です。日本は、稼げる新しい事業を生み出す力がまだ十分とは言えません。もちろん、私にそれを解決できるほどの力があるとは思っていませんが、社会課題として向き合い続けたいテーマです。新たな売上や収益をつくることに携われるのなら、形を問わず関わっていきたい気持ちです。M&Aもその一手段だと考えているので、「事業づくり」に携われる領域に関心があります。
もう1つは、誰と働くかです。自分自身、多くの人と仕事をする中で痛感したのが、どれだけ面白いテーマでも一緒に働く人との相性が合わないと、面白く仕事ができなくなってしまうということ。逆に、テーマがそこまで魅力的でなくても、仲間に恵まれれば仕事は面白い。結局、私にとっては「人」が上位概念なのです。
だからこそ、人を大切にしたいし、ご縁も大事にしたい。そして、一緒に働きたい仲間を増やすという意味で、採用というテーマは外せないと感じています。その上で、ここで得た経験やスキルがどこかの企業や若い世代の方々の役に立つのであれば、副業という形で外部に還元していくことも十分あり得ると思っています。
私より若い人たちが歯を食いしばって頑張っている姿を見ると、私の過去の経験や、そこから得た学びを生かして少しでも助けになれたら、という気持ちが強くなります。そうした形で社会に還元していけるのであれば、それは1つの本望でもありますし、これからのキャリアの中で実現していきたいテーマの1つです。
戦略を描く側から、事業をつくる側へ踏み出すために
副業は、キャリアを一変させるような劇的なイベントではない。Hさん自身も語るように、それ単体で何かが大きく変わるわけではない一方で、事業づくりの解像度を高め、キャリアの帯域を確実に広げる「補強材」として機能してきました。
俯瞰して戦略を描く立場から、実装し、成果を出す立場へ。副業を通じて事業の現場に触れた経験は、Hさんにとって「事業をつくる側」に踏み出すための視座と納得感をもたらし、その後の事業会社への転身、さらには事業家としての挑戦へとつながっています。
Hさんの経験が示しているのは、副業そのものの是非ではなく、「事業のリアルに触れたい」という課題意識に、どう向き合い、どう行動するかという点です。
もし今、コンサルタントとしてのキャリアの中で、同じような違和感を抱いているなら、副業は、キャリアの可能性を静かに、しかし着実に押し広げる一歩になり得る──
Hさんの歩みは、そのことを示す1つのヒントと言えるでしょう。


