【転職事例】外資系戦略コンサルが選んだ「事業をゼロから描く道」 ―「社会的意義×ビジネス」の両立を目指して/株式会社エクサウィザーズ グループ執行役員 羽間康至様 インタビュー

今回は、外資系戦略コンサルタントからAIベンチャーでグループ執行役員、子会社CEOへと転身した事例をご紹介します。
株式会社エクサウィザーズ 羽間康至は、「社会にインパクトを与える仕事で、かつビジネスとして成立させたい」という志を持ち、新卒でA.T.カーニーに入社。製薬・医療機器・自動車・重工業などさまざまな業界のプロジェクトを通じて「スーパージェネラリスト」として活躍されましたが、約3年で「一周回った感覚」を覚え、原点回帰の決断をします。
現在はエクサウィザーズ AIプラットフォーム事業本部長・グループ執行役員と、健康・医療に特化した100%子会社の代表取締役社長を兼務。人口減少社会における企業の生産性向上や医療・介護の課題解決に、AI技術を活用して取り組んでいます。
専門性よりも「スーパージェネラリスト」を選んだキャリアパスの意義、コンサルティングファームと現職の違いや、「事業をゼロから描く」経営者としての視点、そして社会に届く手応えについて語っていただきました。
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経営者を志し、A.T.カーニーでスーパージェネラリストとしてキャリアを切り開く
中村
羽間様は、2015年にA.T.カーニーを経て、エクサウィザーズに入社されています。その意思決定の背景を教えていただけますか?
羽間様
高校時代から、いつかは経営者になりたいと思っていました。私の家系に経営者や政治家もいた影響で、「社会にインパクトを与える仕事で、かつビジネスとして成立させたい」という考えが自然と根付いていました。
大学は工学部に進学しましたが、研究者やエンジニアとして勝負するのは難しいと感じ、体育会男子ラクロス部の部活動に打ち込む日々でした。修士課程に進んだ1年目に就職活動を本格化させ、外資系のコンサルティングファームと投資銀行、ベンチャー企業、大企業の特別採用プログラムなど幅広く挑戦しました。
ただ、当時のベンチャーはゲームやECといったビジネスモデルが中心で、自分が志す産業課題・社会課題×ビジネス開発とのズレを感じていました。また、大企業では巨大な仕組みと構造の中では個人の力は埋もれてしまうと思い、最終的には外資系コンサルティングファームか投資銀行に絞りました。
特に、複雑な産業課題や社会課題、そして大企業と共に変革を志すBtoBビジネスに興味がありました。エンタープライズや産業の難しい課題を理解し、どうビジネスをつくるのか、会社を動かすのか。その力を磨くためにも、コンサルティングの道を選びました。入社後は、「やるからには1番を目指す」という思いで、ひたすら努力を重ねていましたね。
中村
コンサルティングファームでは、具体的にどのようなご経験を積まれたのでしょうか?
羽間様
前職のコンサルティングファームでは、できるだけ多様な産業やテーマを経験することを意識していました。パートナーにも「幅広い案件に挑戦したい」と伝え、製薬・医療機器・自動車・重工業・電子電機・消費財・総合商社など、さまざまな業界でプロジェクトに携わりました。
国内外の事業戦略立案や事業開発の協業、オペレーション改革、企業再生といったテーマにも幅広く取り組み、現場に近いリアルな課題にも向き合う中で、早い段階で「産業やテーマの問題解決アプローチについて、ある程度わかる」という状態をつくることを意識していましたね。
中村
一般的にマネジャーなどのタイトルアップを目指す中で、「何かの専門家にならなければ」と考え、ファームに残るか事業会社に出るかという選択をされる方も多いかと思います。そのあたりはどうお考えでしょうか?
羽間様
正直に申し上げると、自分にはその感覚はほとんどありませんでした。もともと、専門性で勝負できる人間だとは思っていなかったのです。 代わりに、さまざまな分野をバランス良く理解し、組み合わせたり、橋渡しをしたりする「スーパージェネラリスト」としてキャリアを築いていきたいと考えていました。専門性に振り切るよりも、中庸の立場でバランスを取りながら価値を出していく方が、むしろ難しいし意義があると感じていたのです。
私の場合、まず「人間としてどうありたいか」や「社会における自分の役割」といった、大きな概念からキャリアを考えていました。その上で、自分が社会でどのような役割を担いたいかを考えながら、必要であれば専門性を身につける、というスタンスだったのです。
実際、ライフサイエンスやAIといった領域は、結果的に専門性が形成された側面もありましたが、それはあくまで手段の1つであり、最初から「専門性を身につけること」を目的にしていたわけではありませんでしたね。
社会課題×AIへの共鳴と、経営陣との出会いが背中を押した転職の決断
中村
A.T.カーニーでの経験後、エクサウィザーズへの転職を決断されていますが、最終的な意思決定のポイントを教えてください。
羽間様
前職では非常に運が良く、プロジェクトにも、先輩やパートナーにも恵まれました。同期の中でも最速で昇進し、日本だけでなくAPAC(アジア太平洋地域)の中でもトップノッチの評価をいただいたこともありました。
ところが2年半ほど経つと、一通りの業務を経験した感覚が出てきました。当時キャリアラダー的には3つめの関門であるアソシエイトに昇進するタイミングでもあり、「そもそも自分はどうありたいのか」を改めて考えるようになったのです。もともと私は、「社会的意義のあるビジネスをやりたい」「経営者になりたい」「グローバルに進出していきたい」という思いを持っていました。
ただ、コンサルタントとしてシニアになってから直接大企業のマネジメント層に入るルートもなくはないと思ったのですが、自分の性格的になんとなく違和感があって。また、同じく昇進の速い先輩がよく行かれていた外資系の投資ファンドの道も検討しましたが、結局は資本家として経営に参画し、金融業としてビジネスを展開する立場では、『自分自身で現場・現実・現物のビジネスをつくる』実感が得にくいのではないか、と考えました。
中村
その中でエクサウィザーズに出会われたのですね。
羽間様
はい。本当に偶然でした。エクサウィザーズの前社長である石山は、リクルートでAI研究所を立ち上げた初代の所長で、私が情報学研究科だったこともあり、実は修士のころから存じ上げていました。また、現在の社長である春田はDeNA出身で、南場さんと一緒に会社を大きくしてきた方であることをもちろん知っていました。この2人が同じ会社にいる、という事実にまず驚きました。なんで!?と。
中村
たしかに、すごいメンバーですね。
羽間様
さらに、エクサウィザーズ自体も、もともと2つのベンチャーが合併してできた会社で、掲げているミッションが「社会課題をAIを用いて解決し、幸せな社会をつくろう」というものでした。これは、私自身がもともと目指していた「社会的意義のあるビジネス」と、大学時代から取り組んでいた「AI」という技術領域の両方に重なるもの。偶然の出会いでしたが、直感的に「ここで働くのは面白そうだ」と強く惹かれたのです。
加えて、あれだけの経験を持つ経営陣と、まだ走りだしたばかりのフェーズで密に連携しながら働ける機会は、社会人として非常に貴重なことではないかと感じました。何も整っていない段階で、そのような人たちからも薫陶を受けながら、自ら考え、動いていく。そういう環境の方が、私にはむしろ合っていると思ったのです。
事業をゼロから描く視点と、社会に届く手応え
中村
現在、コンサルティングファームと事業会社の両方をご経験されている中で、違いを感じる部分はありますか?
羽間様
考え方や動き方には、明確な違いを感じています。コンサルティングサービスやプロジェクトマネジメントといったスキルは、事業でもすぐに役立ちました。一方で、事業をつくる前段階で「ビジョンと目標を掲げる」「ミッションに沿った事業を生み出して収益を獲得する」「リーダーとして組織をつくり、マネジメントする」といった視点が求められます。
これは、コンサルタントとしての仕事とは根本的に異なるものだと実感しました。もちろん、大変なこともたくさんあります。ただ、それ以上に、自分が「やった」という感覚や、自分が生み出したものが世の中に認められた時の喜びは、脳が湧き上がるような感覚で、これまでにない大きな手応えを感じています。
中村
エクサウィザーズに参画された中で、どのような魅力や面白さを感じていますか?
羽間様
エクサウィザーズの最大の魅力は、メガトレンドであるAIをコアに据えたビジネスを展開していることです。単に技術に取り組むだけでなく、「社会課題を解決し、幸せな社会を実現する」というビジョンを真正面から掲げている。こうした視点を「本気で」持っている企業は、意外と少ないと感じています。
また、研究開発にとどまらず、「人や社会にどう役立つか」という明確な意思・意志を持ってビジネスを構築している点も、他社と違うところだと思っています。特に、企業の生産性を高めることは、人口減少が進む日本において非常に重要な社会課題です。私自身、子会社で医療や介護領域を担当しており、これらのテーマに真正面から向き合いながら、AIを活用して新しいビジネスモデルをつくることに取り組んでいます。
現在、私が所属しているAIプラットフォーム事業本部では、以下の3層の取り組みを行っています。
具体的には、
・exaBase Studioを用いたAIアプリケーションおよびAIエージェントの設計・開発・運用支援
・プロジェクトから汎用化する新規AIサービスの企画・開発
・個社課題に対するコンサルティング型ソリューションやAI設計・開発サービスの提供
この3層を組み合わせることで、クイックな導入から本格的なビジネス変革まで幅広いニーズに応えており、大企業との戦略的なパートナーシップの構築も牽引しています。
エンタープライズ企業の課題解決に必要なスキル――たとえば、課題整理や論点設計、ソリューション設計、プロジェクト推進・マネジメントなど――は、コンサルティングファームで培った経験がそのまま生きますし、Day1から価値を出せる環境だと思っています。
中村
まさに、これからの社会ではAIなしには課題解決ができない時代です。社会に貢献する視点と、アセットを生かしながらビジネスをつくっていける、非常に希少なポジションですね。

ATカーニー社で3年間コンサルタントを務めた後、2018年にエクサウィザーズへ入社。医療介護の領域を担当し、AI創薬や認知症診断デジタルヘルスのプロダクト開発にも携わる。現在は、全セクターを事業対象としたAIプラットフォーム事業全体の統括を行う。